第3話・・・俺にしろよ・・・
「ねぇ、聞いて。鈴ちゃん。」
教室の中に入ると、俺の幼馴染のみさきと、その親友の鈴が喋っていた。実は、俺は、みさきに・・・・惚れている。
「何?みさき。」
「今日も会ったんだ。あの人に!」
今日も、あの人の話か・・・。どうもみさきは、電車で会う他校のイケメンに惚れているらしい。俺には手も足も出せないほどのイケメンだ。
「うそ‼︎カッコ良かった?」
「うん。そりゃあ、もう・・・。」
朝から、みさきは可愛い。他の男のことなんて考えてほしくない。こっち向いてほしい。しかし・・・
「邪魔だ。どけ。」
いつも、こんな冷たい態度を取ってしまう。席が、みさきの前になれたのは、偶然だというのに。そして、このチャンスを有効に使わないといけないのに・・・・。
「何よ。カイト。私の幼馴染だからって、偉そうにしないでよ。」
ごめん・・・みさき・・・。あぁ、この気持ちを伝えられたら誤解も解けるんだろうな。
「意味分かんないんだけど。」
そう言いながら、みさきは背を向け、鈴は“自業自得”という目でみてくる。俺は“うるせえよ”と見返してやった。
俺は、性格が悪い。それは、分かっている。そして俺を、みさきが嫌っていることも知っている。
「名前も知らねぇ奴に惚れるんじゃねぇよ。」
そう呟いてみたが、逆に俺の心を深く傷つけた。俺がもっと素直で良い奴だったら、みさきは、こっち向いてくれるのかな。
翌日。
「今日ね、目あったの。」
「マジ!」
「うん。カッコ良かった・・・。今日1日ハイテンションだぜ‼︎」
「みさき・・・。今日、期末考査あるよ・・・。最終日だけど。」
浮かれているみさきに、鈴が申し訳なさそうに言う。
「あっ・・・。」
どうやら、勉強していないみたいだ。
「でも良いもん!あの人の顔思い出したら、元気になれるもん!」
もはや、開き直っている。かっ可愛い・・・。
「朝から、ピーチクパーチクうるせぇんだよ。」
ごめ”ん”なさ”い・・・。
「そっちこそ、そんなこと思うんだったら、関わらないでよ。」
「みさき。
「良いよ!どっかいけ、馬鹿カイト!」
自業自得だと分かっていても、その言葉は俺の心を深く深く沈ませた。
「異性と目が合う心理調べたらね、興味があるからって、書いてたんだ。」
「良かったじゃん。」
「そうなの!」
ゴロゴロゴロ
その時、雷が鳴った。嫌な予感がする。
「あんたさ、もっと優しくしてあげられないの?」
鈴に、放課後人通りの少ない廊下に呼び出されたかと思うと、性格について言われた。
「無理だと思う・・・。」
「あんたさ、分かってると思うけど、その性格だと、みさきに振られるよ。」
「分かってるよ。」
「じゃあ、なんで・・・」
今朝のみさきを思い出す。
「可愛すぎて・・・・。」
自分でも顔が赤くなったことが分かった。
「・・・その顔で、ずっといたら、振り向いてくれるだろうな。」
鈴はそう言って、白い八重歯を見せた。
「まっ、はやいうちに、そのねじ曲がった性格直しな。私、これから用事あるから。じゃ、また明日。」
そう言っていそいそと階段を降りていった。
「おう。・・・彼氏とデートか。いいなぁ。」
階段を降りながら、叫んだ。
「青春して〜。」
その日の夕方だった。
ピロン ピロン
効果音と共にメールが2件届いた。鈴からだ。『みさき、ショック受けてる。明日が山場だ。明日こそ優しくすべし。』『優しくしなかったら、どうなるか、分かってるよなぁ。・・・あっ脅迫じゃないよ(^O^)』
「ふ,つ,うに,き,ょ,う,は,く,じ,ゃ,ね,え,か,よ。わ,ら。送信っと。」
返信を送った直後に、鈴から、電話がかかってきた。
「もしもし。カイトです。」
[あんた、今から会える?]
俺は時計を見た。まだ6時半だ。
「おぉ、いいよ。」
[じゃあ、
ぷっ ぷーぷーぷー
虚しく機械音が鳴る。『通話時間10秒』と表示されている。仕方なく立ち上がり、部屋着からジーンズとTシャツに着替えた。まさか、待ち合わせ場所をAllium選にするとは・・・。きっと、家の隣だからだろう。実に、鈴らしい。
「俺、ちょっと本屋行ってくるわ〜。」
キッチンにいる母に声をかけ、自転車を走らせた。
駅に行った。俺らのいう本屋は、結構大きい。1階と2階まるまる本屋さんで、3階にこぢんまりした喫茶店がある。そこがAlliumなのだ。
「よう。2時間ぶり。」
「遅かったわね。」
「お前と比べんな。それにしても、なんでこんな急に。」
「今日ね、みさきは帰宅中、電車で例の人に会ったんだって。その時、その人の隣には知らない女の人がいて、彼と同じ学校の制服を来ていたの。で、その2人の会話が“かなた君、好きだよ。”“ここちゃん。好きだよ。”の繰り返しだったらしいの。例の男の子の名前が知れたのはいいんだけど、会話の内容が内容だったから、すごくショック受けたんだって。以上。」
「以上って・・・それだけ?」
「うん。何か不満でも?」
「いや、ないけど。それ言うだけに呼び出したのか?」
「あら・・・そんな訳ないじゃないの、奥様。」
急におばさん化した鈴が続ける。
「で、君はきっと、明日も同じ態度とると予測される。だから、作戦を練ろうじゃないの。」
今、急に頭が痛くなった気がした。
「今なんて言った?」
思わず聞き返してしまった。
「だから、作戦を練ろう。」
「うん?作戦?」
「うん。作戦。」
満面の笑顔の鈴と、冷や汗を流した俺の間に、沈黙の空気が流れる。
「・・・俺、帰るわ。」
俺が沈黙を破って立ち上がった時には、優に2分は立っていただろう。
「あら、そう。残念。せっかく、みさきの好きなタイプ教えてあげようと思ったのに。」
し・り・た・い・!
「・・・うっ。」
だめだ。そんな誘惑に負けるか。
「いや。俺、帰るから。門限7時だし。やば、あと5分しかないじゃん。」
門限7時っていうのは嘘だけど、これくらいいいよね。
「そっか。残念。じゃ、また明日。くれぐれも、メールの件、忘れないように。」
「うん。またね。」
そう言って、俺らはわかれた。
「おはよう!」
翌日、みさきは笑顔で登校してきた。
「・・・おはよう。」
鈴は呆気にとられている。
「あんた、大丈夫なの?」
「何が?」
「失恋したんじゃないの?」
いつもと違う点が2つある。1つは、目がほんの少し赤みを帯びていることだ。これは、それはよく観察しないと気づけないレベルのものだ。間違いなく、みさきは昨日泣いていた。そして、もう1つ。それは目が笑っていないことだ。明らかに彼女は、無理している。
俺は、ガタリと立ち上がった。
「みさき。ちょっと、こっち来い。」
そう言って、彼女の壊れそうな細い腕を引っ張った。
「ヒューヒュー。」「あの2人ってできてたの?」「ラブラブ!」
冷やかしの声が聞こえる。でも、俺の心臓はそれ以上煩かった。
やっと人目のつかない所に来れた。俺は立ち止まって背を向けたまま
「無理してるだろ。」
と言った。
「へ?なんで?あっ・・・もしかして、昨日のこと?鈴から聞いたんでしょ。それなら、もうなんとも思ってな」
「目が赤い。それに、ちゃんと笑えてない。」
みさきの声を遮る。俺は、ふりかえり、みさきを壁に押し付けた。
「お前を傷つけていいのは、俺だけだ。」
「えっ?」
「だから、俺にしろよ。」
「はぁ?それ、遊びで言ってるでしょう?」
俺は、みさきの手を掴み心臓にあてた。
ドクドクドクドク
「すごい。」
「俺は、みさきのことが・・・好きなんだ。ずっと前から。」
「うん。」
優しく頷いてくれる。
「冷たい態度取ってしまったのも、強い口調で喋ってたのも、好きだから。」
「うん。」
「付き合って。」
「・・・ごめん。」
えっ、俺振られた?
「考えさせて。」
ほっ。良かった。
「正直、あんた・・・カイトのこと、嫌いだったから。・・・でも、違いに気づいてくれて、ありがとう。」
その時、チャイムが鳴った。
「予鈴だ。」「予鈴だ。」
声が重なった。
「じゃ、行こっか、カイト。」
彼女は、そう言って、先に廊下を歩く。俺を、いつもと違う優しい声色で呼んでくれる。そのことが、どんなに俺は嬉しかったか。君には、分からないだろうな。
「・・・あのさ。」
俺の声に、みさきが振りかえる。
「1人じゃないからね。俺が、いるから。頼ってよ。」
みさきは、ただただ、満面の笑みで俺のことを見つめた。
朝の光が、眩しかった。
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