第2話 ・・・すれ違い⑵・・・

 今思い返せば、俺はなにもかも春樹に頼んでいた気がする。『俺には無理や。可愛すぎて近付かられへん。頼む。この通りや。』を言えば何とかなっていたからよほどだ。

「テツ、帰ろ。」

放課後、何週間も無視続けた爽香が声をかけてきた。

「おう、ええよ。」

 爽香と並んで歩く道は、花畑だ。いつもは、寄り道をせずに爽香の家まで歩くのに今日は公園に寄った。彼女の匂いに酔いそうだった。

楽しそうに世間話をしていた爽香が黙ったかと思うと、震えた声で喋り出した。

「あのさ、別れて、ほしいねん。」

「・・・・なんで?」

「・・・私な、1年からずっと学年1位やねん。でも、テツと付き合い始めてから成績が下がってきてて。親にいい加減にしろって言われてんねん。」

声が今にも泣きそうなくらい、震えている。

「・・・なぁ、テツ。私の事ホンマに好き?」

好きに決まってるやん。心の中で叫ぶ。

「・・・。」

口に出せないのが悲しい。

「な、答えられへんやん。」

爽香の目から、大粒の涙が零れおちる。その姿が美しくて、見とれてしまった。そういえば、爽香の泣き顔を見たのは、初めてかもしれない。

「いつもやん。告白の時も、春樹くんに言ってもらってるし。1年も付き合ってんのに、メールだけで、ちゃんと“好き”ってテツ自身から言ってもらってない。」

だんだんと口調が早くなり、棘が出来てくる。涙を拭ってる彼女を、慰めようと伸ばした手を拒絶される。仕方なく、彼女が泣き止むのを待った。

「私さ、そんなに人の心読まれへんし、強くないで。ただの、平均よりちょっと上の中3やで。勘違いされても困る。テツなら、素の私を見てくれるって思ったんやけどなぁ。・・・やっぱ無理か。」

「そんなことない。俺は、お前のこ」

「私の事、お前じゃなくて名前でちゃんと呼んだことある?なあ。」

俺の声を爽香が遮る。確かにそうだ。よし、正直に言おう。

「・・・さやか、俺は爽香のことが好きや。俺が今まで、名前を呼べへんかったり、好きって言えんかったんは・・・その・・・好きすぎて・・・恥ずかしかったんや‼︎ほんで、爽香の隣におったら心臓がバクバク言って、怖かってん。」

それまで、怒りで興奮していた爽香は、とした顔で俺を見ている。

「ふふふふ。」

爽香が笑い始める。

「何や、そうやったんや。勘違いしてたわ。」

そう言って、彼女はしばらく笑い続けていた。

「はぁ、スッキリした。」

「なぁ、ちゃんと聞いとけよ。1回しか言わんからな。」

ドクンドクン

「うん。何言うん?」

ドクンドクン

「聞いてからのお楽しみや。」

ドクドクドク

「えっと、1年越しの告白な。・・・俺は、爽香のことが、好きや。やから・・・もう1回付き合おう?」

心臓の音が爽香に聞こえてないか心配だ。

「やば、心臓が壊れそう。」

彼女が呟く。

「お、俺もや。一緒やな。・・・で、答えは?」

俺の耳に顔を近づける。

「––––––––––。」

言い終えた彼女はにっこりと笑った。今まで見た中で、最高の笑顔だった。

 彼女を、夕焼けの茜色が包んでいる。

「はっはっはは。はははは。」「ふふふふふ。はははは。」

俺らは、笑いながら泣いていた。


「良いに決まってるやろ。バカテツ。」


 これから創る、俺らの物語。どんなものになるのだろう。

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