ココロクスグル
房成 あやめ
第1話 ・・・すれ違い⑴・・・
「いいなぁ。お前。」
ある昼休み、幼馴染の春樹からそう言われた。
「何が?」
「クラス1かわいい爽香ちゃんと付き合ってるやん。」
「よく言われる。」
俺と爽香は1年程前から、付き合っている。しかし・・・。
「ただいま、すれ違い勃発中。すれ違い勃発中。やろ?」
電車好きの春樹が車掌さんの真似をして言った。
「そうや。なんか悪い?」
「はよう仲直りしいや。狙ってる男ぎょうさん、おるで。」
そう言って春樹は、爽香の方を見た。彼女の周りには下心丸見えの男がぎょうさんおった。心の底から黒い気持ちが湧き上がってきた。
「すごいなぁ。サッカーめっちゃ上手いやん。」
きっかけは、その言葉だった。たまたま、サッカー部の練習試合を見に来ていた爽香に声をかけられた。
「同じクラスの、テツくんやろ。」
爽香は、癒し系だ。ふわふわしたボブヘアーで、ほのかに優しい香りで包まれている。彼女の周りだけ、時間がゆっくり流れているようだ。しかも、彼女は結構男子から人気があり、3年の先輩や1年の後輩からもよく告白されている。
そんな、彼女に名前を覚えてもらっていることが意外で、意識し始めた。彼女を見つめれば見つめるほど、好きになっていった。彼女の全ての動作が愛おしくて、ちょっと動くだけで心臓が張り裂けそうだった。・・・触りたい。
しかし、このころの俺には、この気持ちが恋だと分かっていない。
「お前、爽香ちゃんの事、好きやろう。」
いつか、春樹にそう言われた。
「へ⁈お前何言ってんの?」
「丸見えなんだよ。この、リア充。」
そう言いながら、俺の腹をつついてくる。しかし
「え・・・爽香は友達やろ?」
という、俺の言葉を聞いた途端、急に真顔になった。忙しいやつだ。
「まじか・・・。お前、自覚ないの?」
「自覚って、なんの自覚?俺、サッカー部として自覚は人1倍あるで。」
「いや・・・そうじゃなくて。・・・なんか、もういいわ。お前にも、そのうち分かると思うし。」
「えぇ、じゃあ、今日は・・・1月17日。17番、高木。教科書読んで。あっ、立ってね。うん。」
睡魔との戦いが繰り広げられる5限目。今日は、歴史だ。
「江戸時代末期の日本。1853年ペリーが浦賀に来航しました。––––––––」
“お前、爽香ちゃんの事、好きやろう”“お前、爽香ちゃんの事、好きやろう”“お前、爽香・・・・春樹の言葉が木霊する。
好キ。スキ。すき。好き。love。like。
「好き。俺は、爽香ちゃんが、好き・・・。」
頭で考えてもわからない気がして、声に出してみた。しかし、恥ずかしくなっただけで、俺の心情に変化はなかった。
通学路に、灰色の雲が広がっている。そよそよと吹く風が首をかすめる。
「寒いな。」
「ポケット、入れる?」
「えぇ、どうせなら、ヒロくんと手繋ぎたい。」
「ええよ。」
「ヒロくん。大好き。」
幸せそうなカップルの会話が聞こえる。あの人たちは何故付き合っているのだろう。あの人たちは「好き」とはどういうことなのか、知っているのだろうか。
「Hey,Siri.好きってどういうこと?」
スマホのSiri機能に問いかける。
「こちらが見つかりました。」
機械音が答えてくれる。出てきたものに、恋名言集があった。少し気になりタップしてみた。
どうしてもどうしてもさわりたくて、気が狂うほど、もういてもたってもいられなくて、彼女の手に触れることができたらもうなんでもする、神様。
吉本ばなな(日本の小説家 / 1964〜)
俺はこの言葉に釘付けになった。俺の気持ちはこれに近いのかもしれない。
翌日。
「俺、爽香ちゃんのこと、好きかもしれん。」
「おぉ、やっと自覚したか。」
「ほんまに、かわいいわ。見てて飽きひん。」
「おい、お前怖い。」
「俺は幸せや。」
「・・・こわ。」
おそらくこの日は他の人から見ても、俺の周りはお花畑だっただろう。
ある日、
「はよ告れ。そうやないと、他の男に取られるぞ。」
と春樹から言われた。俺は、冷汗をかき、そして、未来の爽香の彼氏に嫉妬した。春樹は、俺が爽香のことを話題にする度、その言葉を言うようになった。
告白はしたい。しかし、勇気がない。どうしようか・・・。
そうや!
「春樹、ごめん。あいつに好きなやついるか聞いてくれへん?」
(ごめん、春樹・・・。)と思いながらも、この考えは1週間俺が、アホな脳みそを絞りに絞って思いついたものだから、どうすることもできなかった。。
「あほか、自分で聞け。」
案の定、否定の意見が返ってきた。しかし、俺は諦めぬ。
「俺には無理や。可愛すぎて近付かられへん。頼む。この通りや。」
これは、お世辞ではない。すれ違う度、彼女から甘い香りがして、苦しくなってしまう。
「・・・しょうがないなぁ。」
春樹はこれで終わりだと思っていたかもしれない。だが、俺はこれで懲りなかった。
「俺が爽香のことが・・・好き・・・ってことも言ってくれへんか?」
もちろん、
「まじか・・・・。お前、それを告白って言うねんで。」
と、言われた。しかし、俺には諦めない精神が根付いている。
「知ってる。けどお願いや。俺には無理や。可愛すぎて近付かられへん。頼む。この通りや。」
と、しつこく頼み続けた。
「しょうがないな・・・。はぁ。」
そう春樹が言った時は、天井に頭が付くほど跳び上がった。
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