第6話

 見上げた闇に映る『桜楼祭』の文字が朧で、あたしはふっと息を吐いた。


 とうとう迎えた本番、学園祭。心なしか冷える指先に、あたしはギターネックを強く握り直す。

 目の前に広がる大勢の観衆。静まり返った会場。

司会を務める生徒の「『Seiren』の皆さん、お願いします」の声の直後、突如として赤い照明が闇を切り裂いた。

「宜しくお願いします!」

 打ち鳴らされる爆音。それに負けじと叫ぶ燐夜。

 交錯する赤と興奮に沸くオーディエンス、脈打つように揺れる一筋のメッシュ。


 そして訪れる一瞬の静寂。



「もっと声出せ」

 直後、歪んだ轟音に空気が軋んだ。







「三曲目、『Addington』でした!有難うございました!」

 

 邪魔な前髪を痛む指先でかき上げると、あたしは未だ沸いたままのギャラリーに「さて」とMCを続けた。

「まだまだここに立っていたいですが、次の曲で最後とさせて頂きます。この曲は『Seiren』発足以来初のオリジナル曲で…そして、今の私の素直な想いです」


 スポットライトが、眩しい。

 最前列の茶髪の隣で、見慣れた青メッシュがハッと息を呑んだのが分かった。

 …来てるのは知ってたけど、まさか先代のキーボードと一緒だったなんて、ね。

 そっと、誰にもバレないように唇を噛み締めた。



「更に、今回は文芸部を代表する書き手・『LiaR』の協力の下、彼女の作品を楽曲化させて頂きました。


 …聴いて下さい。『If you…』」




 流れ出したキーボードに身を委ね、あたしはそっと瞼を閉じた。

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