第4話
「…辛い事思い出させてごめんね」
「…?」
「だって…べにちゃん、いつか打ち明けてくれたよね。ヤンキーだった頃の…一年前まで『
「覚えてんのかよ。…まあ今になっちゃあただの笑い話だ、別にどうこうって気は無ェよ」
「…でも……」
悲しそうに眉を寄せる師匠に、あたしは「つかよ」と苛立たしげな低い声を発した。
「んな事よりよ、澪さん…他に言う事があんだろーが。さっきからずっと目ェ泳いでるしよォ…はよ言えや」
「うっ…べにちゃん、さっきのライブで思ったんだけど、大分弦傷んでるみたいだから、そろそろ替えた方が良いんじゃないかな?」
「…んな事かよ。でも流石だな、澪さん。確かに、最後に替えてからもう相当経ってるし…新しくするよ」
「…フフッ」
…あ、やっと笑った。辛気臭い表情よりも、澪さんは笑顔が似合うのに。
なんて事を考えながら、あたしは目の前の師匠に「そうだ澪さん、次に演る新曲の事なんだけどよ」と話を切り出した。
「次のライブの事なんだけどよ」
澪さんとの会合の翌週。急遽部員達を呼び出したあたしは、部室に集まったメンバー達を居丈高に見渡した。
「次のライブっつったら桜楼祭…うちの学祭だろ。んであたし達軽音部は毎年新曲を披露する事になってる」
そこまで話して一息吐くと、クリアファイルに綴じていた紙を一人ずつ配って行く。メンバーの眉が訝しげに寄るのを見て、「…楽譜だっつの。全パート分作ってあるから安心しとけ」と小さく告げた。
「…待ってべに、この曲名どこかで聞いた事あるよ…?」
「そうだろうな。…お前、『LiaR』って知ってるか?圧倒的な技量で有名な、文芸部に所属する書き手だ」
「?うん…」
「この曲は『LiaR』の小説を楽曲に直したモンだ。安心しろ、ちゃんと澪さん伝いに『LiaR』の許可も貰ってある」
「…べに、あの『LiaR』の小説を楽曲にしたの!?」
「何回も言わせんじゃねえ。それに、基盤にした小説は『LiaR』の中でもかなり反響を呼んだ…珍しく主人公が報われないモンだ。…一瞬だって両想いにならねぇ、ずっと擦れ違ったままのな」
「…ねえべに、もしかして…」
「…ああ。分かってんよ、龍牙はあたしを捨てて八島さんを選んだ。でもそれが龍牙の答えだし、あたしもどうこう言うつもりは無ぇよ」
…なんて言ってみても、口の端を零れる微笑は皮肉げで、自嘲げで。
ふと吐いた息が寂しくて、無理矢理に笑ったあたしは「っしゃ、今日はもう解散な」と手を叩いた。
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