第3話

「俺達の仲間にならないか?」




 …去年の初夏、確か雨の日だったはずだ。それまで燻っていたあたしが、青メッシュとの邂逅を果たしたのは。


「…んだよ。あたしに何の用だ」

「…去年の中等部で『新進気鋭の二刀流』として名を馳せたギタリスト。それって…九十九べに、お前だろ」

「…誰だテメェ。んな昔の話あたしに持って来るなんて、良い度胸だな」

「軽音部の…『Ariadne』のドラム、二年の六月むつき龍牙りゅうが。頼む。今の俺達には、お前の力が必要なんだ」

 …あの時、あたしは何と言ったんだっけ。それでも…たった一瞬でも、確かにあたしは何かを求めた。

 そして…言われるがままについて行ったその場所で、あたしは再びギターを持ち始めた。


「宜しくね、べにちゃん」

 澪さんのお陰ですぐにブランクを取り戻し、一月後にはベースの燐夜と一緒にボーカルを務める事になって。


 …“『Ariadne』の九十九べに”。もしかしたら、ヤンキーに成り果てていたあたしは、胸を張って言える居場所が出来て嬉しかったのかもしれない。



 …そして。




「べに、俺と付き合ってくれ」

 山の紅色が褪せるようになった頃、あたしを導いてくれた青メッシュの隣を歩むようになって。一本に結い上げた自慢の黒髪に、彼が「似合う」と言ってくれた赤を一筋注して。


「…良いな、赤メッシュ」


「テメェと色違いだっつの」





 …幸せだった。自分でも信じられないくらい惚れ込んでいた。


 なのに…どうして気付けなかったんだろう。告白されてから今まで、一回も「好き」なんて言われた事が無かったなんて。

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