4話 贈り物
「連れてきた理由、それは封印された私の代わりにやって欲しい事があるからだよ」
「なんでオレなんだよ?理由とかあるのか」
「そうだね……連れ込むのは誰でも良かった、かな?まぁ流石にあの大家と呼ばれているおばあちゃんは勘弁したいけど。間が、運が無かっただけだよコクトウ君のね」
異世界に召喚するのは誰でも良かったと気楽に喋るヤーフェに若干イラッとしたが、込み上げる感情を押さえて無言で会話の進行を促した。
「コクトウ君が掃除していたあの老人ね、この世界でかなり有名な奴なんだ。君達の世界で言う勇者って奴だね、この壺や本に仮面とか色々あっただろ?これらも異世界の物なんだよ」
「――――は?あの老人異世界からやって来たのか」
「うんうん、そうなんだ。名前はカイン、勇者であって裏切り者の1人。私から体を奪った忌々しい奴さま!死んだけどね。カインは世界を渡り私の干渉を妨げ魔法から遠い文明を選んで長い年月私の復活を邪魔していたのさ」
「話のスケールが大きいな。それで老人……カインが死んだからお前が自由になって、それでたまたま居合わせたオレが巻き込まれたって事か?」
「ビンゴ!ビンゴ!その通りだよコクトウ君。まー厳密には残った魔力を使って君と私をこの世界に飛ばしたんだけどね。戻っても私壺じゃん?動く手足が欲しかったんだよ、丈夫な!」
「あっ無理だ」
「ん?何が無理―――痛い!?」
完全な被害者と分かった瞬間オレは壺を壁に向けて投げていた。壁にぶつかり軽快な音が鳴る、しかし壺は無傷で床をゴロゴロと転がりながらオレに抗議してくるのであった。
「ひ、酷い!今はこんなのだけど私凄い美人なんだよ!そんな女の子を投げるなんて酷いよコクトウ君」
「ツッコミの時間が無駄だからそのまま話進めて」
「むー良いだろう。大体察しはついたと思うが私の目的は封印を破って復活する事だ。その為には膨大な魔力と体が必要になってくる、そしてそれを君にやってもらいたい。それがあの草原で取り交わした君に力と知恵を授ける代わりに私の願いを1つ叶える願い事。―――血の契約だ」
「聞けば聞く程酷いマッチポンプだよな、どっちにしてもオレが必要なのに契約で縛るとか酷くないか?」
「ふふふ。魔女とはそう言う―――痛い!?」
床を器用に転がりながらこちらに転がってくるヤーフェを蹴り飛ばす。壁と床を交互にバウンドしながらぼやくヤーフェを無視して会話を続ける。
「復活したいのがお前の願いって分かったが、それならギルドで管理している
「んー?無理無理。あれの仕組みなんだけ地下にある魔脈から魔力を吸い上げて公使している大規模術式なんだよね。世界で循環している大マナと人が持っている小マナは省くとして私が必要な魔力は魔物から取れる魔石、その魔石に含まれるエーテルなんだよ。根本的に違うのよね~」
「結局地道に魔石を焚べないとダメか……ダルいな」
「コクトウ君が冒険者になったら楽に魔石が稼げると思うんだけどな~チマチマ買わなくて済むし粘液の味も飽きたしね」
「冒険者?嫌だよ危ないから」
「うーん
「はぁ……別に好き好んで死体集めしてる訳じゃないけどね。それしか活用出来ないからやってるだけで、それに魔物の生態を理解すれば安全に回収出来るし」
「―――ああ、あの本か。カインが書き記した魔物の
先程の軽い声色から一転してトゲがある声色になったヤーフェが言うカインが残したグリモワール。この世界に飛ばされた時に一緒にあった物の1つ、初めて読んだ時は謎の文字しか書いてなかったがある時ふと読んで見ると最初の数ページだけ何故か理解出来た。分かったのはブルースライム、ブラックハウンド、バジリスクの3匹の魔物の情報。読んで理解したと言うよりは自然と頭の中に入っていた、前から知っていた事の様な感覚だった。ヤーフェ曰くソコがグリモワールの特性らしい。何がトリガーで解読出来たのか相変わらず不明だし、ヤーフェにこの本の事を聞くと露骨に不機嫌になるから黙っていたが封印した張本人が書いた本ならその態度も納得出来る。
「このグリモワール。勝手に魔物大図鑑って呼んでるけど、これ便利だよ」
「ふ、ふーん?ふーん?私の方が100倍凄いけどな!」
「壺が拗ねているシュールだな」
「そんな物よりあれだ!聞きたい事はもう無いんだろう?なら私のグリモワールを出して残り時間は魔法の勉強だコクトウ君!!」
「確かに無いけど今日は外食する予定だからもう寝てて良いよ、魔力の無駄使いになるからな。じゃ!」
「え?嘘、私の凄く有難い授業よりご飯を選ぶのかい。生前あれほど教えを請いに来た連中が居た私の魔法を?ま?ま?」
「魔法の授業はまたで良いわ、今使える魔法で事は足りるしな」
「待て待てせめて何かテイクアウトしてきて、久しぶりに美味しいご飯食べたい!」
「そんなナリでも味覚はあるんだな、でも何のリソースも無いだろ?安心しろ明日また魔石食べさせてやるからさ」
「絶対粘液の奴じゃん!」
悲鳴をあげる壺に布団を被せて明かりを消しオレは軋むドアを開けて外に出た。外はもう真っ暗だった。
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