3話 魔女ヤーフェ(壺)

「日も暮れてきたな、暗くなる前に買い物をすまそう」


 流れていくガラクタを眺めながら歩を魔法道具店マジックショップに進めていく。手形はまた今度換金するとして、今回の報酬が2003リール。手持ちと合わせておよそ2703リール。ここから食費や家賃、魔法水道光熱費を差っぴいて自由に使える金貨は……。


「予算は1000リール位か、会話が出来る分魔石は買えるな。残りは……久しぶりに外で食べるか」


 久しぶりの外食に心が弾む。元の世界の常識が当たり前の様に通じなくて初めは四苦八苦したが大分この世界の常識とやらに慣れてきた。しかし無理な物もある、それが食事だ。この異世界の食べ物は兎に角味が薄い、旨味が物足りないのだ。思えば当たり前の話だ、遺伝子改良に化学調味料。そこに培った知恵を駆使した現代の食べ物と異世界の素材をお楽しみ下さいみたいな食べ物とでは勝負にすらならない。我慢は出来る、しかし1度食べた味が忘れられないのは仕方がない事だ。


「味噌汁飲みたい……味噌ってどう作るんだ、大豆を発酵する位しか知らんぞ」


 そうして異世界生活での愚痴が止まらないまま独り言を呟いていると目的のお店に到着した。


「愚痴っても前には進まないか……おーいババア、生きてるか?オレだ。魔石は売ってるか」


「なんじゃコクトーか、魔法使いの類いでも無いのにまた魔石かい。ほれこんな物しか無いぞ」


「相変わらず小さいな……ってコレだけ少し大きいけど?」


「ん?ああ、昨日買い取った奴かね。卒業組がバジリスクを1匹倒したらしくてね、その時のドロップアイテムじゃよ」


「へぇー卒業組って事は卵のクエストか、逃げれば良いのにそりゃ凄い。どんなパーティーだった?」


「初耳かいコクトー。お前さん冒険者でもない流れ者なんじゃからもう少し耳を広げた方が良いじゃろ。ほれ、あの仮面で顔を隠して槍を持ってるあのパーティーじゃ」


「あー彼奴等か立派に成長した物だな、確かに他の連中と違ってリスタート1回だったもんな」


 リーダーの槍兵ランサー呪術師カースメイジ2人だけのパーティー、確か名前はランサーがギィラでカースメイジはガガだったか。1回目の死亡はバジリスクに遭遇して死んだが、あの現場を見るにバジリスクも相当手傷を負ってたと思える。多分失敗から何か学んで対策したのだろう、となると最初から目的は卵じゃなくて討伐だったのか意外と負けず嫌いだったんだな。彼女等を思い出せば負けず嫌いって言うのは間違って無いのかも知れない。謝礼で貰ったガガの装備で些か一悶着あったからだ。話の平行線もあったが当時は魔法に興味があったので暫くガガからカースメイジの魔法を教えて貰うと言う条件で話が終わった記憶が甦る。余り会話はしなかったが印象としてはギィラは無口でガガはどちらかと言うと人見知りって所だったな。


「そしてリリアとほぼ同時期に冒険者になったと言う、悲しいな」


「リリア?ああ、まだ生きてるのか冒険者には向かんわなぁあのエルフ。元気にしとるか?」


「ん?ああ、少し前復活してクエスト受けに行ったぞ。間違いなく元気に死んでる」


「人でなしじゃなぁコクトー……録な死に方せんぞい」


「先に死にそうな奴が言ってもなぁ……で、これいくら?」


「そうじゃなぁ腹が立ったから3割増しで……冗談じゃどうせまとめて買うじゃろ、買い手もお主位じゃまとめて800リールでどうじゃ?」


「ああ、それで良いよほら」


「即決かい交渉のしがいが無いのぉ」


 カウンターに置いた革袋の中身を確認しながらぼやく店主に適当に返事を返しておく。だって交渉とか面倒だし疲れるし嫌なんだよな。


「ほれ、何に使うか知らんが扱いには気をつけるんじゃぞ。それとあのエルフの事もなぁ」


「変な事には使わないよ、それにアイツの事は大丈夫だ安心しろ明日回収してやるから」


 そう言い残し店を出る。後ろで店主がやれやれと言っている様な気がしたが小言は聞きたくないので無視して家に帰る事にした。外に出るとまだ夕暮れだった。


「――――さて」


 石造りの橋の下にある小さいな借家が今のオレの住む家、軋むドアを開け明かりをつける。魔力を通すパイラインから魔力が供給され明かりの役割を持つクリスタルが照らし出される。無造作に置いた壺を拾い上げ先程購入した魔石を放り込む、底の見えない壺を覗き込み返事が返ってくるのをベットの上で座りながら待つ。


「――――モグモグ。ほお~粘液味には飽きてた所だったんだ、鶏肉旨し」


「起きたかヤーフェ」


「ぷっは~やぁヤーフェちゃんがお目覚めだぞ」


「時間を無駄にしたくないから雑談は抜きだ。質問するぞ」


「―――ああ、構わないよ。この魔女ヤーフェに質問したまえ、契約者コクトウ君」


 今まではこの異世界で生きていく為の相談や生きるすべを学ぶ為に魔石を消費していたがこの半年で生きていく力は充分身につけた。だから、今日聞くのはもっと根本的な内容だ。


「答えろ、何でオレをこの世界に呼んだ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る