2話 類は友を

「こんな粗大ゴミでもあの質屋なら買うだろ」


 包まれた棍棒と杖を横目に呟く。早く売り飛ばそう、聞いた限りだとあの3人組もリリアに負けず劣らずめんどくさそうな気がする。ミカエラといつまでも雑談していると復活した彼奴等が文句を言いにくるかもしれない、リリアにまた駄々をこねられたら時間の無駄だ。


「あー!!見つけたコクトーちょ、目が合ったのに逃げるな!」


「……流石に3桁も死に戻りすると復帰も早いのかリリア、取り敢えず甦りおめでとう」


「ふぇ、まぁありがとう……じゃなくて!ちょっとその私の装備返してよ!」


「なんで?」


「何でって装備が無かったら魔物と戦えないじゃない、そんな事も分からないの?」


「どうせまた死ぬのに?」


「う、うるさい!良いから私のソドムとゴモラ返してよう一生懸命作ったんだから」


 どうやらこの自作武器に愛着があるのか昔持っていた武器と同じ愛称までつけている。思えばあの武器そこそこの値段で売れたがなんでコイツが持っていたのか不思議だったんだよな。


「なぁ棍棒と棒きれ持って私魔法剣士って他の冒険者達に言えるのか?寧ろ盗賊辺りの方があってるよな」


「あんたが装備を全部持っていたからじゃない!」


「あれか、良い値段で売れたよ。買い戻しするなら質屋に行けばまだあるぞソドムとゴモラ」


「だからその為にクエスト受けてるんでしょ!そんな事も分からないの」


「あーなるほどな、それで死ぬと。まだハムスターの方が賢いんじゃないのか」


「ハムスターなんか知らないわよ!私をバカにしてえぇぇ」


「仕方ないな知らない様だから教えてやる。ギルドでクエストを受ける時に受付で装備の貸し出しを頼め、お前みたいに魔物所かただの野犬にやられる奴でもちゃんと渡してくれるぞ」


 このまま人の往来がある所でポンコツエルフを苛めていると変な噂になりかねない。ミカエラとの会話で出た装備貸し出し制度の事を伝える。あの会話のやり取りから察するにコイツには敢えて教えていないと分かった、当たり前だ。こう何回も死んでいたら装備の在庫が無くなるだろう。装備が乏しい新米達の救済措置がまさかこんな裏目に出るとはギルドも思っていないだろう。


「え!何それ本当?嘘、じゃあ早速借りてクエスト受けなきゃ。あのスライム達に復讐してやるんだから」


「じゃあこのガラ……装備は貰って良いだろう?」


「ええ良いわそんなの持ってたら変に思われるし。悪いけど私もう行くね!」


「ああ、ファイトだリリア」


 ついさっきまで死体だった彼女は元気よくギルドの方に走って行くのを見届けオレは家畜を育てる人達の気持ちを理解した。


「さて、今度こそ質屋に……」


「あ!見つけましたわ、この泥棒。私の愛剣エクスカリバーを返しなさい!」


「エリザさん……やっと止まった」


「ふえぇ……もう動けない」


 リリアを見送った後、突然後ろから大声で呼び止められる。振り向くといかにもお金が掛かったと分かる細かい装飾が施されているハーフメイルを着こんだツインテールの女の子がオレを睨んでいた。


「エリザさん彼は泥棒ではありませんよ。あくまで私達を回収したそのお礼と言う形でとギルドの方に説明を……」


「ふぇ……立ってらんない」


「うるさい!うるさい!知らないわそんなの事リザは黙って、それとミミ地べたに座らないで情けない」


 声をかけられた時点で察しはついていたが間が悪いとはこの事を言うのだろう。いや、寧ろ案の定面倒な奴等だったと思うべきか、こんな事ならリリアに見つかった時に逃げれば良かったと反省する。


「何だ誰だと思えばあの3人組か、良かったなリスタート出来て」


「コクトーさんでしたよね、本当にありがとうございます。あのまま未回収で昇天していたかと思うと」


「だーかーらリザは黙ってって言ってるでしょ!そんな事より何で私のエクスカリバー持ってくのよバカなの!」


「リリアと被るな。いや、何でもない。えーとエクス……この剣を持っていったのは自分じゃなくて担当者に文句を、それと理由はコレが一番値がついたからだろうな」


「はあああぁ!何それ訳分かんない、お金も半分持っていってるし詐欺よ詐欺」


「詐欺ではありませんエリザさん、ちゃんと同意書書きましたよ」


「ふぇ、お腹すいたなぁ……」


「質屋まだやってるかな。ん、腹へったのか木の実やるよ」


「わーいありがとうお兄さん」


「リザは黙って何度……ってミミ何餌付けされてるのよ!」


 1人でヒートアップしていくエリザの声が大きくなっていく、行き来していた人達もこの寸劇が気になったのか足を止めて此方を見ているのが嫌でも分かる。この状況を冷静に判断出来たのはお付けのリザと言うポニーテールの女の子とオレだけ、エリザとミミは先程渡したリリアの非常食である木の実を奪い合っている。


「ふみゃー半分だけなら良いけど全部はダメー」


「誰がそんな貧乏臭い物食べるか!捨てなさいって!」


「まるでコントだな」


「あの……コクトーさん、ちょっと良いですか?」


 木の実の奪い合いを眺めているといつの間に横に来たのかリザが小声で話し始めた。


「――――なのでお願いできませんか」


「まぁ、コレに固執してる訳じゃないし別に構わないよ。どうぞ」


「ありがとうございます、では此方を」


 リザがエリザに聞こえない様に話しかけた内容は代金を払う代わりに剣を渡して貰えないかと言う相談だった。こちらとしては手間も省けるし、額も売るより実りが良い。多少の値段交渉の後オレはエリザの愛剣エクスカリバーをリザに渡し、代わりに紙切れを1枚貰った。


「為替手形か、ちゃんと判子も押してあるし本物だな」


「勿論偽物で煙に巻こうとは思いません信用に関わりますし、本当に感謝していますので。ご迷惑をかけてすみません、では」


「いえいえ、こちらこそ」


 剣を受け取った彼女は会釈をするとエリザ達の方に戻っていった。このまま居ても意味がない、オレはエリザに絡まれない内に人混みに紛れて消える事にした。


「―――結局残ったのはこのガラクタか」


 あの人混みから何とか脱出に成功したオレは離れた所で橋の上で一息ついてた。為替手形に革袋いっぱいの金貨。そしてオレの手に握られたソドムとゴモラと呼ばれているガラクタ。


「うーん。金は入ったし、やっぱコレいらないな」


 そう断言してリリアが丹精込めて作った装備を川に投げ捨てた。


「よし、魔石でも買いに行くか」

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