孤独な世界への転生〜ランチャー無双であなたと桜が見たかった〜

鯖信者

第0話 孤独な世界で鯖は哭く

その人のピアノを聴くと、その時の心の中がはっきりとわかる。

つまり、自分が弾くといつも重たく聞こえる。


弾き方が乱暴、曲になってない。


自分がつくる音がどうしようもなく耳に障る。


───おいおい…ピアノまで自分を見捨てて行くのか…


声にならない掠れた音、俺の心はコトバの形を成さない。

そういえば、昨日は何も食べていないし今日も昼に少し食おうとして、吐いた。

暖かくなってきた春の心地いい風が、吐き気を催す最悪の風へと変わったのはいつぶりだろうか。


なんかもう何もやりたくない。好きなものも嫌いになっていく……


今度はもう、口にしない。

乾いた喉はもう俺自身を語れない。

誰に届かなくてもいい、届ける人もいない。

──そう、もういない。


くだらないな、って鏡に映る死んだ鯖みたいな俺の目が言ってる。

誰もいない、孤独な世界。

あの子はもういない、孤独な世界。


無力な俺には忘れないことしか出来なかったけど、それすら疲れてしまった。


『英雄の証』


ひび割れた指でそっと奏でる。

ばらばらに離れていく音、回らない指は、そう、俺自身のメタファー。


英雄になれず、それどころか大切な人すら守れなかった俺の創る音。

間もなくfin.へ辿り着く。


ごめんなさい───さよなら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

孤独な世界への転生〜ランチャー無双であなたと桜が見たかった〜 鯖信者 @saba_lun

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ