第224話:紅き華
結局、都研で持ち上がった話は一度持ち帰ってエンプレス・ロアの
楓人なりに考えは持っているが、こういう時に最も頼りになるのはこの男だ。
夜八時頃、カンナと怜司と共に少し遅めの食事をしながら、部活内で得られた情報の共有を行った。
「まだ情報不足だけど……こんな所だ。今の段階ではどう思う?」
「そうですねえ、変異者が何かをしている可能性が高いですね。レギオン・レイドに話はしておいた方がいいでしょう。それはそうとリーダー、何か方針があって私に相談しているのでは?」
「実を言えばそうだ。まあ話がここまで進めば、考えることは一つしかないな」
回りくどい言い方をしていたのが一瞬で看破され、楓人と怜司は顔を見合わせて笑い、カンナはそんな二人を微笑まし気に眺める。
以心伝心と言うべきか、お互いの考えていることはよく解った。
今、為すべきは―――。
「「すぐに現場に行くしかない……だろ(ですね)」」
そして、一時間後に他のメンバーへと話を伝えると素早く段取りを整えて出発することにした。
出発は午後九時三十分過ぎ、現場に着くのは十時半過ぎになる。商店街が蒼葉北寄りにあるおかげで、終電に間に合うよう帰って来られるはずだ。
今回のメンバーは怜司、カンナ、燐花、そしてレギオン・レイドから一名が現地に合流する予定になっている。
商店街で変異者がいないかどうかを探すには、燐花の探知は必須なので頭を下げて出てきて貰ったのだ。
休ませてやりたいのは山々だが、こればかりは仕方がない。
幸いにも夜型気味と聞いてはいるので、普段眠っている時間に駆り出されたわけではなさそうだ。
「まさか、いきなり行こうって言い出すなんて思わなかったわよ」
電車に揺られながら、燐花はじとーっと楓人に視線を向ける。
この時間に蒼葉北から西方面へ移動する人間も少ないと見え、電車内には人はまばらだった。
「悪かったな。怜司と話をしてたらすぐに行った方がいいって話になってさ。一人暮らしの燐花なら多少は融通効くんじゃないかと思ったんだよ。今後は出来るだけ早めに連絡するようにするから」
「別に怒ってるわけじゃないし、別にいいけど。それなら仁崎も連れてくればよかったじゃない」
「柳太郎は単独行動にも慣れてる。何かあった時に一人で戦えるのはあいつだろ」
怜司や燐花に言われるまでもなく、今回の人選は最初から決まっていた。
楓人とカンナはリーダー兼最高戦力として必須、燐花は探知役、怜司がいてくれることで何か新しい発見があるかもしれない。
残した明璃と柳太郎には共通点があり、それは“能力がそれなりに万能”なこと。
万能型二人の留守は裏を返せば、有事の際にどんな作戦でも取れると同義だ。
「まあ、それはそうだけど」
「何だ、そんなに柳太郎に来て欲しかったのか?」
「そ、そんなんじゃないってば!!」
発言を勘違いされたと思ったのか、燐花は慌てて否定する。
柳太郎の気持ちがどうなのか知らないが、少なくとも燐花側にも全く脈がないわけもなさそうだが如何なものか。
何にせよ、電車はあおぞら台駅に到着して一同は商店街へと歩く。
もう夜遅くとあって商店街方面に歩く人影もわずかなものだ。
駅を降り、高架下を抜けて歩くことしばし。あおぞら商店街の空と雲を象ったアーチの下まで四人は辿り着いていた。
「やっと来た、大分待ったんだけど」
しかし、そこには楓人は見覚えのない人影を見て足を止めた。
気だるげにゲートに寄り掛かり、一行を待っていたと見えるパーカーとジーパンを身に着けた少女は、楓達より少し上かどうかという年齢に見える。
やや赤みがかった髪が街灯に照らされて生えるも、戦意のない雰囲気を見る限りでは敵ではない様子だった。
「悪いけど、名前を名乗ってくれないか?それまで安心出来ない」
「
不愛想に告げるとようやく楓人も完全に安堵して肩の力を抜く。
レギオン・レイドから助っ人を派遣するという話は事前に聞いていたが、目の前の相手がそうだと確認するまでは気を抜けなかった。
“レギオン・レイドの人ですか?”なんて質問をすれば、仮に敵意を持つ相手だった場合は乗ってくるに決まっているからだ。
正式に話は聞いているし、柳太郎からも拠点戦で唯と交戦する前に戦った相手だと伝えられていた。
「ああ、悪かったな。疑うようなことして」
「別に怒ってない。それぐらい警戒して当然でしょ」
視線で商店街の奥を促して竜胆は歩き始める。
どうやら、あまり集団行動が得意なタイプではなさそうだが、渡がこちらに送ったとうことは実力も相当なものだろう。
それに意味のないことはしない渡が選んだ人間だ、何か特別な理由があると思っていいはずだ。
以外にも完全に行動を共にすることが少なかったメンバーに竜胆を加えて、一同は目的地へと向かう。
道路を挟んで四方に散らばる第一から第四の商店街、四人は噂の中にもあった第二からまずは探ってみることにした。
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