第223話:亡霊の店
メモの最上部には“亡霊の店”と何ともシンプルなタイトルが、女子らしい丸っこい字で丁寧に記入されている。
タイトルだけでも大体の内容が想像が着く気もするが、とりあえずは話を最後まで聞いてからコメントは挟むことにした。
全員の視線が陽菜に集中し、その先を促すように言葉を待つ。
それを受けて、頷いた陽菜は言葉を選びながら話し出す。
「蒼葉西にシャッター街あったじゃん?あ、知らない人もいると思うけど……一時ニュースにもなってたよ」
「確か、店の人が蒼葉市の外に引っ越して空いた商店街……だったかしら」
「そそ、あそこって今は蒼葉市が管理してるみたいでさ。お店入れるお金を安くしたから、人も増えてはきてるけどまだ空きは幾つかあるみたいなんだよね」
そのドキュメンタリーはテレビ好きの怜司がいるおかげで楓人も見ており、大体の情勢は知っているつもりだ。
蒼葉西にある大型の商店街、あおぞら商店街は道沿いに第一から第四までに区画分割された名物の一つだった。
そんな場所も大災害で第一と第二が半壊し、周辺が商売どころではなくなったせいで一気にテナントがいなくなったのだ。
しかし、蒼葉市が復興を支援して人が戻り始め、ようやく勢いを取り戻し始めてはいるが空きテナントもまだあるという話だ。
「だけど、夜になると……その空いているお店に人がいるってハナシが最近になって出始めたんよね」
「それって勝手に入っちゃってるってこと?」
「気になった商店街の人が見に行ったんだけど、その時は誰もいなかったみたい。でも、そっからネットでヘンな噂が流れ始めたみたいでさ。“あおぞら商店街の第二区画の空き店舗で裏商店が開かれてる”ってウワサなわけ」
「裏商店って……レアなもので売ってくれんの?」
燐花が胡散臭いと言いたげに気だるげな声を上げた最中、楓人は携帯を使って裏商店の噂がどれだけ出てるかを調べておく。
複数のキーワードで検索をかけるだけでも確かに引っかかる。人の目に付く場所に複数回書き込んでいるせいで、ブログなどにも取り上げられていた。
だが、その先に彼女が告げた言葉は見逃すわけにはいかなかった。
「それがさ、麻薬とかじゃない“自分を変えられる薬”とかって誰かが言ってたんだけど……さすがにないわーって感じじゃん?」
燐花とカンナと咄嗟に視線を交換すると、事態が変わったことを共有する。
裏商店を名乗るということは、その“自分を変えられる薬”と名付けられた怪しさしかない薬を販売する意味で捉えるべきだ。
もしも、その薬が
これは、都研で安易に取り扱っていいテーマではない。
都市伝説には普通の人間が立ち入らざる闇があると他三人は知らない。
「だが、それはあくまで売人が空き店舗に入り込んでいるだけの話ではないのか?なぜ、亡霊扱いになったのかが納得いかんな」
光が的確な疑問を挟んでくれたおかげで、楓人は質問を挟む必要がなく思考に没頭することができた。問題はどうやって、この噂の商店街にカンナと燐花以外のメンバーを立ち入らせないかである。
「商店街の人がもう一回様子を見に行った時に、カギが開いてたみたい。それで中を見たら……ゲーム画面とかのバグみたいにユラユラしてる変な人影が立ってたーって」
それを聞いて、この話に潜む危険性をますます確信に近付いた。
恐らくは楓人と似た全身装着型の
つまり、この都市伝説の元になったのは変異者の可能性が高い。
最悪の場合を考えれば、何らかの目的で動いてる変異者が一般人に薬を広める販売ルートを構築する為に噂を流したかもしれないのだ。
「暗闇で見間違えたわけではなさそうだな。亡霊と裏店舗の噂が関係あるのか……興味は尽きないな」
光の興味が完全に向き始めており、これは非常に危険な兆候だ。
光が乗り気になった都市伝説は今まで大体、調査に行く流れになっている。ここで都研で扱うのが決定してしまうと非常に厄介なことになる。
かと言って頭ごなしに否定しすぎると、納得がいかない都市伝説の現場には一人でも向かいかねないのが光の困った所だった。
「柳太郎も次は来るだろうし、全員で話し合って決めよう。それとネットの噂もそれまでに探してみようぜ。もしかしたら、危険な場所かもしれないからな」
「一応、まだケガとか行方不明の人は出てないっぽいね。ま、ネタは投下したから後はお任せってことで!!」
カンナと燐花がいち早く賛同したおかげで、椿希と光も楓人の提示した通りに慎重な活動を行うことに異存はないらしかった。
今日だけでもたらされた都市伝説は二つ、そのどちらもきな臭い内容だ。
蒼葉市に出現した人狼、亡霊が住む裏商店。
その背後に見え隠れするのは血のように赤い
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