第214話:とある休日 カンナ・椿希編-Ⅲ


 今日は椿希に語ったのはここまでだ。


 その先でエンプレス・ロア結成に至った経緯を少しだけ思い出す。

 改まった様子で楓人がカンナに話があると言ってきたのは、あれから二週間が経った頃だった。

 カフェのテーブルに向かい合って腰かけて、大事な話は始まった。


『ずっと考えてたんだ。自分の居場所が欲しい、他の皆にも居場所がなきゃいけないってさ』


『・・・・・・居場所って、皆が楽しい場所?ってことだよね』


『そうだ。カンナが傍にいてくれて、椿希や柳太郎も見捨てないでいてくれた。あの気持ちと感謝を俺は一生忘れちゃいけないと思ってる』


 そう今までの気持ちを交えて前置きしつつ楓人は語り始めた。


 きっと、楓人のように特異な能力を獲得した人間は多く存在する。

 誰もが良い人間ばかりでない以上は、“この力を利用して何か事件が起こるだろう”とまだ中学生程度の年齢の子供が考えたのだ。

 自分の在り方を、人の在り方を見つめ直した故に彼はそこまで至った。


『それに、あの日に起こった大災害は・・・・・・間違いなく自然に起きたんじゃない。原因もわかってないし、多分また起きるだろ』


 楓人は自分の考えを言葉を選びながら語っていく。

 あの日に何かが起きて人間を超えた者が生まれたのなら、蒼葉市には火種がばら撒かれたことになる。

 再び大災害が起これば、人々の居場所は失われるだろう。

 椿希や柳太郎も、出来るかもしれない仲間を含めた多くの人が死ぬ。


 居場所を失う気持ちを誰も味わう必要なんてない。


 楓人はカンナに深く頭を下げたのだ。


『たぶん、俺がやらなきゃ誰もやらない。都合の良い頼みかもしれないけど・・・・・・俺に力を貸してくれないか?』


 カンナとの親交が深まったことで、互いに力の姿を理解していた。

 戦える手段があると知り、楓人なりに自分の未来を考え続けたのだろう。

 ようやく彼が掴んだ未来に対して、唯一無二のパートナーになる資格を持つカンナが拒む理由は全くなかった。

 自分の為にも人の為にも戦いたいと真島楓人が願うなら。


『私で良ければ喜んで。私は楓人の力アスタロトだから』


 そうして、二人だけのチームは誕生した。

 この時は、ここまで短期間で影響力あるコミュニティーになるとは二人は想像していなかったのだが。



 ―――カンナは語り終えると、一息吐いた。



 ゲームセンター前のベンチで飲み物を口にしながら、遊ぶ前に少し休憩がてらに長い話をしたのだ。

 久しぶりというより、初めて二人が出会った頃の話を人にした気がする。

 思えばすっかり楓人とも気の置けない話が出来るようになったものだ。


「聞いてみるとカンナらしい理由ね」


「言いすぎちゃったって、ホントに反省してるんだけどね・・・・・・」


 もっとも椿希を目の前にして、楓人の発言を直接的に伝えるのは申し訳ないのでオブラートに包んだ。

 椿希が来てくれる事を申し訳なく思っていた、程度には抑えた。

 全てを話すことがお互いの為になるとは限らない。

 カンナも十分に理解した上で、楓人が友人を大切に思う気持ちを伝えたかった。


「あなただったのね、楓人を励ましてくれた人」


「椿希と仁崎くんのお陰だよ。私一人じゃダメだったから」


 友人として椿希も、楓人を何とかしてあげたいと願い続けたのだろう。

 彼女は苦笑するカンナを見て、唇を緩めると言葉を重ねる。

 その瞳には友人に対する親愛と、心から想った相手を支え続けた少女への感謝が如実に表れていた。


「私一人でもダメだったわ。それじゃ、二人で協力してやり遂げたってことにしておきましょうか」


「うん、そういうことにしよっか!!」


 二人は顔を見合わせて、心からの笑顔を交わす。

 やはり椿希と恋愛ではライバルだろうが良い友達になれる、直感が間違っていなかったと確信する。

 心から信頼できる相手だからこそ、カンナも本来はあまり話すべきではないだろう昔話をしたのだ。


「さて、そろそろ行きましょうか」


「うん、今日は思いっきり遊ぼうね」


 カンナと椿希はゲームセンター内へと向かって歩き出す。

 今までも打ち解けていたつもりだが、自然と距離は近くなった気がする。

 カンナにとって楓人は大切な存在だが、同様に大切な友人や仲間も出来た。


 足取りは軽く、具現器アバターでも人間でもある少女は今を楽しむ。


 彼女個人にとってもコミュニティーや友人のいる学校は、大切な居場所だ。

 アスタロトだろうと、純粋な人間ではなかろうと居場所は変わらない。

 戦いの辛さも何もかもを忘れてはいない、が。



 端的に言うならば、雲雀カンナは幸せだった。



 とある休日 カンナ・椿希編 END

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