第213話:とある休日 カンナ・椿希編-Ⅱ
カンナは気落ちした様子の楓人に色々と話しかけた。
彼を一人にはさせたくなくて、彼女自身も既に楓人とは離れられない関係だと理解していたからだ。
パートナーでいるしかない、と既にカンナだけは覚悟していたのだ。
『お前、人間じゃないんだろ・・・・・・?』
ここは椿希に語った部分ではないが、当時の楓人は素っ気なく彼女の厚意を拒んだものだった。
それでも、カンナは火の海の中で出会った少年を放っておけなかった。
楓人の力として覚醒した時に感じた優しい風は、きっと彼の本来は優しい心を表しているはずだと信じていた。
今は進むべき道が見えなくて、誰の声も届かないだけだ。
『うん、たぶん違うと思う。でも、私は楓人のこと絶対に見捨てない』
『・・・・・・そう言ってた母さんも死んじゃうし、親父だって叔父さんだって来ない』
『それでも、私はずっと傍にいるから』
カンナなりに言葉を尽くして楓人を励まし続けた。
椿希も訪ねて来るようになり、柳太郎からの手紙も届くようになった。
最初は元気のなかった楓人も徐々に口数が増え始めているのを見て、カンナは自分のことのように嬉しかったのだ。
少しずつ、楓人は話をしてくれるようになっていた。
だが、根本的な楓人の傷は癒えていないとカンナは気付いていた。
実質の所では両親を失った悲しみは簡単には癒えないし、どう生きていくかも見つかっていないのだ。
未だに回復傾向にはあっても昏睡に陥ることもある。
『楓人、何かして遊ぼうよ』
カンナの声に楓人も次第に反応してくれて、二人でトランプをして遊んでいた。
その途中にふと、楓人が何の気なしに呟いたのだ。
『俺さ、生き残った意味ってあるのかな』
『えっ・・・・・・?』
思わずカンナはカードを取り落として、呆然と少年の顔を見つめた。
それだけは、今までに楓人がどんなに落ち込んでいても言わなかった想いだ。
しかし、“そう呟きたいほど未来が見えない状況だ”とカンナは何とか動揺を抑えて、理解を示そうした。
傍にいるカンナは、楓人にとっては簡単に捨てられるものだったのか。
大切な人になれたと自負してはいないが、ただ悲しかったのは我慢できる。
それ以上に椿希や柳太郎も彼と友達でいたいと願って、交流を続けているはずなのにと唇を噛み締める。
彼女も楓人に元気を与えてくれる二人には心から感謝していたのだから。
『俺が生きていても、意味がある気が全くしねーんだよ。こうして、学校も行けなくてさ。普通に生活するのなんか無理だろ。椿希や柳太郎だって、俺に構ってるほど暇じゃねーし』
『・・・・・・本気で言ってるんなら、そういうの良くないと思う』
『・・・・・・カン、ナ?』
楓人は呆然とカンナを見返し、ようやく呼んで貰えるようになった名前を呟く。
普段は楓人に対して向けることのなかった悲しみと怒りが、自分の表情に浮かんでいるのがはっきりと分かった。
自暴自棄になるのも解るが、それだけは口にしないで欲しかった言葉だ。
『私のことはいいの。迷惑かもしれないし、寂しいけど我慢するよ。でも、友達だって来てくれてる。楓人にとって全部どうでもいいみたいに言うのは・・・・・・それだけは違うよ!!』
『俺の為なんかに来させる方が悪いだろ!!気を遣われて、親に見捨てられたからって来てくれる。でも・・・・・・俺は辛いんだよ!!』
カンナが珍しく大きな声を出したことに戸惑いながらも、楓人は気を取り直したように言い返してくる。
楓人はきっと誰かが優しくしてくれる度に“自分にそんな価値があるのか”と思うようになってしまったのだ。
本当は友達のことだって、彼が恩を感じているのはカンナでもわかる。
自分に嘘を吐いた言葉だからこそ、さっきの発言だけは看過できない。
本心を捻じ曲げて、友達の気持ちを悪く言うのは絶対に間違っている。
『だからって、友達が来てくれるのを悪く言うのはおかしいよ!!』
二人は自分の抱いた気持ちを吐き出し続けた。
これだけ語気を荒らげたのは、カンナが楓人と出会って初めてのことだ。
そうして二人が自分の主張を概ね吐き出し終えた時、楓人の肩が微かに震えていることにカンナは気付いた。
友達に酷いことを言った、カンナに強い言葉をぶつけてしまった、と楓人は恐らく自分の中で後悔している。
自分なんかに構わない方が幸せになれる、そう楓人は嘘を吐いた。
『・・・・・・ごめんな、酷い事言って』
『私も言い過ぎちゃって、ごめんね』
二人は向かい合って、それぞれ謝罪の言葉を交換する。
肩を震わせた楓人の目から雫が頬を滑り落ち、ぽつりぽつりと本心が零れていく。
『俺、なんかに構ってるよりさ。あいつらも、友達も出来るし・・・・・・俺は、何もしてやれないし』
震える声で語られる声は、未だに未来を見出せない楓人の感情の発露だ。
大災害を乗り越えて新しい人生を歩む皆の足を引っ張りたくないから、楓人は友人関係を断とうと考えていたのだろう。
悩み抜いた末に、ついカンナにだけには気持ちを漏らしてしまった。
『私は違うと思うな。二人とも楓人が好きだから来てくれる。それを嬉しいと思うなら、二人の為に出来ることを一緒に考えようよ』
『・・・・・・一緒に?』
『私は楓人と一心同体みたいなものだからさ、同体ではないけど。一緒に考えれば何か浮かぶかもしれないよね?』
カンナに向けられた目は、初めてカンナをパートナーとして見てくれたものに相違なかった。
そして、日が経つにつれて楓人の目には光が戻り始めた。
カンナへの今までの言動についても頭を下げられて、カンナ自身が参るぐらいに謝罪されたのを覚えている。
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