第183話:歓迎会



 そして、翌日のこと。


 今のコミュニティーに必要なことを考えて歓迎会を執り行うこととなったので、エンプレス・ロアのメンバーがカフェにはいつも通りに集結していた。

 全員にジュースの入ったガラスのコップを配り、リーダーの楓人が音頭を取る。


「それじゃ、皆。柳太郎の仮加入を祝して・・・・・・乾杯ッ!!」


「おめでと、仁崎くん。乾杯っ!!」


「かんぱ―――い・・・・・・じゃないわよ!!」


「おお、いいノリツッコミだぞ。さすがだな、燐花」


「どうもありがとう!!そこじゃないでしょ、何で一晩でこんなに状況がひっくり返ってんのよ!?」


「まあ、そこはわたしも同意だよね」


 燐花が凄まじい勢いで漫才テクを披露し、それに苦笑しつつ明璃も同意する。

 怜司とカンナは現場に立ち会ったので事情は全て把握しているが、この二人は地味な仕事を任せがちで柳太郎の加入までは伝わっていなかった。

 こういう形にした方が勢いで受け入れ易いかと思って企画したのだが、そう簡単にはいかない。


「ちゃんと説明はする。俺達はな、男同士で戦って解り合ったんだ」


「・・・・・・フウくんってたまに説明が雑になる時あるよね」


「要するに、殴り合って解り合ったってことでしょ?そういうのは、あたしも嫌いじゃないのよね」


 男のロマンが解る女、燐花がこちらへと加わった。

 別に明璃もしっかりとした説明が欲しかっただけで、柳太郎を仮の仲間として加えることに文句はないらしい。

 ある程度は独断で動くことも求められるだろうが、しっかりと説明を行うのがチームとしての基本なのはよく知っている。


「つーわけで、オレはバイトみたいなもんだから。一応、そっちの方針には従うし、勝手な行動も出来るだけ控える。そんでいいだろ?あ、楓人ジュース取ってくれ」


 居心地の悪さを感じてもおかしくない状況で、柳太郎は堂々とカフェ内のカウンター席を占拠していた。

 白銀の騎士として単独でも動いていたぐらいなので、思い切りと度胸に関しては常人のそれを遥かに超える。


「昨日の今日で普通に接してる楓人もだけど、仁崎も軽いわねー・・・・・・」


「変異者だからって友達やれないわけじゃねーし。むしろ、そういう方向をお前らは目指してるんじゃないのか?」


 柳太郎の発言には燐花も頷いて肯定を示したきりだった。

 変異者同士が手を取り合い、今までと同じように生きていくのが理想なのはエンプレス・ロアの本質を突いている。

 そして、そこにおいては柳太郎と楓人は完全に同じ考えだ。

 考えの違いはあっても根っこにあるものが似ていたからこそ、今回のように和解を成功させることが出来たのだろう。


「私達が受け入れるフリして騙してるって思わなかったの?わたしだったら凄く怖いけど」


「オレ、人を見る目はそこそこあると思うんすよね。楓人は長い付き合いだし、菱河と雲雀さんだって部活の仲間だしな。そんで騙されたってんなら、オレがバカだったって話じゃねーっすか」


 明璃の問いに関する柳太郎の答えは明瞭だった。

 要するに騙されるも騙されないも自分の見る目がなかっただけの話。

 その程度の人間を信じ切っていた自分が悪いのだ、と無理やりに自分を納得させる為の心構えだ。


「あたしはそんなの無理ね。裏切られたらめちゃくちゃ腹立つし、根に持つわ」


「そりゃ、オレだって場合によっては殴るけどよ。半分はオレも悪いってこと。バカだったオレも悪かったっつー話なら自分の中でも納得できるだろ」


「自分が悪いって思いながら、相手も悪いのにって思っちゃうことあるわよね。確かに半分ずつケジメ付ければ納得できるかもしんないわ」


 この二人は妙に気が合うのもあって、燐花も柳太郎のある意味では合理的な考え方に賛同を示す。

 柳太郎がごく普通に溶け込んでいるのを喜ぶ半面、良い意味で図太い友人の適応力に改めて舌を巻いた。

 同時にこのメンバーで和気藹々とした時間を過ごせる事に感動さえ覚える。


 そして、柳太郎の仮加入の報告以外にもこの場で話しておくことがある。


「さて、と。あんまり重たい話はしたくないんだが・・・・・・これからの方針について、俺の考えを言っておく。ジュースでも飲みながら聞いてくれ」


 歓迎会でする話でもないが、全員が集まった機会に今後の方針を打ち出す。

 全員の視線が楓人に集まった所で更に言葉を重ねていく。


「俺達が変異者達の中で持つ影響力は大分、大きくなってきたと思う。無所属の変異者は吸収し、ロア・ガーデンでの情報も集まり易くなってる。ハイドリーフからも多くの変異者が俺達を支持してくれるはずだ」


「本当に変わったものですね・・・・・・」


「まだ先は長そうだけど、わたし達を頼ってくれる変異者も多くなったよねぇ」


 初期メンバーの怜司が感慨深そうに呟き、明璃もそれに同意を示す。

 少なくともエンプレス・ロアの一貫した長期に渡る活動は、変異者達の世間的にも認められてきているという証明だ。

 地道な活動を通して、胡散臭い団体だという先入観はここ数年でほぼ完全に消すことが出来た。


 エンプレス・ロアに情報を流せば面倒事を収めてくれる、その認識が広がっただけでも本当に大きな進歩だ。


 ようやく、そこまで辿り着いて戦力増強が出来たから次の段階に進もう。


「レギオン・レイドに戦いを挑むつもりだ。それに関して意見を聞きたい」


 これは憎しみを交わした殺し合いに発展する危険性は低いとはいえ、今までの楓人達の活動とは方針そのものが異なるのだ。

 今までは犯罪が起こってから対処していた黒の騎士から宣戦布告するのならば、上手く言い訳を作らなければ非難されるかもしれない。

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