第182話:二人の在り方

「つーわけでだ。オレも少しは折れなきゃ白黒つけた意味がねーと思うわけよ」


 柳太郎は自分の主張があっても、他人の意見に耳を傾けない頭の堅い男ではないと楓人は知っている。

 むしろ、自分の意見との落としどころを探す器用さを持つ友人だ。


「じゃあ、どうする?ウチのメンバーになってくれるのが俺としては最高の形なんだけどな」


「まあ、そうだな。バイトみてーな扱いにしといてくれ」


「我々の味方になれど正式なメンバーにならないという事ですか?」


「さっすが怜司さん、そういうこと。昨日の今日で完全にお前の言うことに納得するっつーのも都合良過ぎる。ただ、見届ける価値はあるんじゃねーかと思ったんだ」


 にっと笑う柳太郎は決して軽い気持ちで言っているわけではない。

 主義は曲げなくとも、楓人ならやれるかもしれないと考え直した以上は“絶対に期待を裏切る行動はするな”と言っているのだ。

 楓人が間違えないかどうかを、仮のメンバーとなって見極めるつもりなのか。

 柳太郎はきっと楓人が道を外せば容赦なく殴り飛ばしてでも連れ戻す。


 変異者達の命運すらも背負う戦いで妥協は許されないのだから。


「一つだけ約束してくれ。柳太郎を完全に拘束するつもりはないけど、当面は俺達の方針に従ってくれないか?」


「ああ、いいぜ。その代わり気に食わんかったらガンガン文句言うけどな」


「その方が俺も助かる。情けないことに立派なリーダーじゃないからな」


「それはどうか知らんけど、とりあえずは従ってやるよ」


 正式なメンバーでない以上は従いかねる方針も出て来るということだ。

 しかし、特に問題がなければ行動を共にもする微妙な立場にコミュニティーメンバーが納得してくれればいいが。

 まず、柳太郎とひと悶着あったことから説明するのは骨が折れる。


 だが、柳太郎と敵であり続けることを望まなかった楓人にとっては、最高に近い結末を迎えることが出来た。


 そして、これは同時に今までに起きていた様々な謎を解明する機会でもあった。


「柳太郎、この街では色々なことがあった。白銀の騎士が関わっていることをまずは全て教えてくれないか?」


 色々な事件にどこまで関わっていたか不明だった、白銀の騎士の行動を知ることで残りの敵の姿も見えるだろう。

 現状ではっきりしている勢力の多くを占めるのがスカーレット・フォース、レギオン・レイド、ハイドリーフだ。

 これらの強力な変異者を擁するコミュニティーを全て取り込むことが出来れば、理想の果てが具体的に見えてくる。


 その為にも、変異者の世界で何が起きているかを明らかにする。


 故に楓人と怜司は今までに疑問に思っていたことを順番に柳太郎にぶつけた。

 特に紅月と柳太郎は行動が読めない分、どちらの行動かが掴めなかったのだ。

 解ったのは都市伝説の噂の一部を流したのは柳太郎だったという程度。


 しかし、大きな謎の一つがようやく語られた。


 白銀の騎士が何を目指していたのか、だ。


「オレは最終的には大災害に繋がるもんを潰す為に動いてきた。犯罪者は潰してはきたけど、直接に手を下したのは獣を操ってたヤツだけだ」


 柳太郎は自分の活動を隠すつもりもないようで、あっさりと自身の目的や今までの行動まで詳細に語ってくれる。

 柳太郎が人命を奪ったことに思う所はあれど、あの獣を止められずに犠牲を多く出してしまった楓人が何も言う資格はない。


「そんで、オレはその為にもう一つだけ仕込みをしてた。それは―――」


 今までに黒の騎士が楓人だと知る前にも、時折だが肩入れしていた理由。

 方々のコミュニティーと関わりを持っていた意味。


「コミュニティー同士が手を組めば次の大災害は防げるんじゃねーかってな」


「待ってくれ、それはエンプレス・ロアもやってることだろ?」


「オレがやろうとしたのは平和を求める大層なもんじゃねーよ。主義主張が違おうが、戦いを起こさない。要するに永久の現状維持だ」


 これが白銀の騎士として柳太郎が目指したものの正体だ。

 犯罪者をしっかりと排除すべきだと主張しながらも、今の状態を維持してコミュニティー間の争いを起こさない。

 コミュニティー同士は、ただ戦いを起こそうとするものを共同で排除すればいい。

 それだけで考え方の違う団体は共存できる。


 だから、世界を変えようとする黒の騎士とは今までは相容れなかった。


「そりゃ、俺達の味方になんかに簡単になれなかったわけだ」


「ま、本当にお前の目指す通りになるなら文句はねーんだよ。そんな都合の良い話が実現すんのかって話さ」


 変異者にはそれぞれの主張があって当然なのだ。

 犯罪者を裁き続けるべきだと考える者、同じ考えの者だけが結び付けばいいと考える者、危うきには近寄らない者。

 柳太郎はそれを割り切って利害の関係で結び付くだけでいいと考えた。

 対する楓人は変異者が共通して守る法を設けるべきだと考えた。


「オレからもこの機会に聞かせてくれよ。ハイドリーフの大部分はお前の味方になるだろ。次はどうするつもりだ?」


 この先に明確なビジョンがあるのかを柳太郎は聞いているのだ。

 マッド・ハッカーはほぼ崩壊し、ハイドリーフは戦力としては計算できなくても支持は得られるだろう。

 次に明確にすべき相手は一人しかいない。


 ようやく、機は熟したと言えよう。


「次は、レギオン・レイドをこちらに引き込む」


 変異者の世界の変革が確実に進むだろう一歩を楓人は決意していた。

 きっと、この戦いの果てに世界が少しは変わる。

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