第181話:未来の話


「そいつ、名乗ってはいなかったか?」


「名乗ってはいないけど、見た目の割にすごく落ち着いてる感じで……大人っぽかったね」


「一応聞いとくぞ。唯、お前は知らなかったんだよな?」


「う、うん。多分、カイトくんもぜんっぜん知らないと思う」


 ここまで来れば、その男が誰かをほぼ確信していいだろう。

 しかし、楓人の予想では先程の反応と状況を組み合わせても、唯がハイドリーフを扇動していたとは考えにくい。

 だとしても、紅の男とやらはハイドリーフのリーダーとして陰で動いていた可能性も大いにあった。


 その男が紅月柊だとすれば、彼がハイドリーフという保守派グループを設立したことになってしまう。


 確かに平和を謳う紅月が取った手段の一つだという考え方も出来るし、信憑性もそれなりにあるかもしれない。

 だが、本当にそれだけでハイドリーフは成り立っていたのか。

 同じグループが情報をしっかりと統制しながら、互いにSNSのように繋がるなんて都合の良い集団が現代に生まれるものか。


「リーダー、ハイドリーフには管理局が関わってる可能性がありませんか?」


 隣に立っていた怜司からもたらされた言葉を聞いて、楓人にも今までの事件に関する推測が立てられた。

 管理局が楓人とは別に変異者統制の為に取った手段がハイドリーフだとすれば、全ての説明が着いてしまう。


 確固たる成果を挙げつつあるエンプレス・ロアの前例を活かして、ネット上での交流を取り入れた可能性もある。

 そして、管理局に知人がいると渡が聞いたという紅月が、陰からハイドリーフへの細かな調整を行っていたとすれば辻褄も合う。


 つまり、この説では管理局と紅月は組んでいるという結論になる。


 隠す意味もないとこの場で全員に説明を行うが、特に唯からは得られる情報も多いと判断して結論を完全に共有した。


「確かに、うちのリーダーは昔は管理局と手を組んだこともあるー言ってたけど、最近は全然そんな感じじゃなかったけどなー。って言っても、わたし達って結構別行動多めなんだけどさ」


「九重、その男を呼び出す方法はあるのか?」


「SNSでなら呼べるかもしれないけど、絶対とは言えないよ」


「じゃあ、後日でいいから呼び出してみてくれ。唯も今回はこっちに協力してくれるな?このことを紅月に黙っていてくれるだけでいい」


「うーん、悪い気もするけどオッケー。わたしも本当のこと知りたいし」


 紅月を呼び出すなら唯の方が確実だが、今回はハイドリーフと接触していた男が紅月だと証明することが目的だ。

 スカーレット・フォースのリーダーと会っても、しらを切られれば終わる。

 それに今日は、すぐに取り組まなければならない仕事があった。


「わかった。直ぐに連絡してみるけど、返信には二・三日かかると思う」


「ああ、頼むぞ。別に失敗なんかしていいんだ。俺達はもう本当の意味で仲間になったんだからな」


 九重とも色々と話すことはあるが、とりあえずの激励は入れておく。

 頷く九重には、以前のように無性に不安になる雰囲気はなくなっていた。

 人間は気の持ちようで大きく変わる、怜司が力の差を見せつけても楓人が見捨てなかったことで正しい意味の信頼を獲得したのだろう。


 そして、今回は今後の打合せをして別れた。



 ―――さて、ここからがもう一つの山場である。



 カフェに戻ってきた楓人・カンナ・怜司の三人は柳太郎と合流する。


 黒の騎士と白銀の騎士の関係がどうなるかは、これからのコミュニティーに大きな影響を及ぼすことになる。

 周囲はすっかり真っ暗だが、灯りを付けて怜司にコーヒーを頼むと柳太郎には座るように促した。

 カンナもカウンター席に腰掛けて二人の様子を見守る。


「まあ、お前とだし堅苦しい話ばっかりするつもりもないけどな」


「楓人と真面目な話ばっかりだと逆に調子が狂っちまうしよ。そういや、やっぱりお前と雲雀さんって変異者同士だったのな」


「うん、ずっと前からそうだよ」


「ま、楓人に惚れたのはあんまり関係なさそうだけどな」


「……えへ、うん。そ、そういうの関係なく好きだから」


 からかうような表情を見せた柳太郎に対して、羞恥を浮かべながら笑うカンナ。


「そ、それはいいから進めるぞ。俺達がどうするかだろ」


 友人と本人の目の前で好意を明確にされ、直球発言への耐性はそれなりに高めの楓人も顔が熱くなるのを自覚する。

 ここでその話を始めると厄介なのは解り切っていたので、今は何とか話題を逸らす方が無難だった。


「誤魔化しやがった……」


「誤魔化したよね……」


 だが、柳太郎も真剣に話をする場だとは弁えているので笑みを消して楓人の言葉を待った。


「それで……あの戦いでこっちの主張に耳を傾けてくれる気になったのか?」


「まあ、少しはな。相手がお前なら話は変わる。今までは黒の騎士なんざ胡散臭せーと思ってたし納得いかないことも多かった。でも、お前ならそれなりにやるんだろうとは思えるさ」


 あの戦いは二人の間にあった、絶対的な壁に確実に亀裂を入れるものだった。相手が信頼する人間だと知り、実際に戦って想いの強さも確認し合ったのだ。

 それに、戦って楓人の覚悟を試すと明言していた柳太郎に何も響かない殴り合いだったとは思えない。

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