第180話:繋がる存在
色々と処理すべきことはあるが、まずは九重のことからだ。
全員がそれなりに疲弊しているので、休みながら話をしたい所だが竜太郎と楓人は装甲を外すわけにはいかない。
仕方なく、この場で大体の話を着けておくことにした。
「それで……九重。お前、一週間の約束を忘れたわけじゃないんだよな?」
そう、最初に追求しておくべきは九重が約束をあっさりと破ったことだ。
確かに楓人も九重に対しての姿勢が毅然としたものではなく、一歩的に叱るつもりはないが、何が悪かったかを九重には理解させなければ解決にならない。
「……忘れてはいない、けど」
気まずそうな顔をしたことからも多少の罪悪感はあるらしいので、ここで言うべきは“何故そんなことをしたのか”なんて追求じゃない。
そんなことはこちらでも、とっくに解り切っていることなのだ。
「俺もたくさん間違えるから偉そうに言えないけど、あえて言わせてくれ。九重、お前は間違ってる」
「……私が、間違ってる?」
「前にも言ったが、俺はお前と一緒に戦っていきたいと思ってるよ。九重の気持ちだって嬉しい。でも、一緒に戦うんだからお互い相談しながらやろうぜ」
九重は自らが黒の騎士に対して有能な同志であろうとした。
彼女の憧れに可能な限り近付くために、見捨てられたくない焦りが九重の今回の行き過ぎた行動からは見えてくる。
怜司に叩かれて大人しくなった今だからこそ説得の余地があるのだ。
「人間、完璧じゃないから一緒に話し合って戦うんだろ。そうしてくれるなら、お前がどんな失敗しよう見捨てるなんて有り得ない」
言葉を探しながら彼女の自分に完璧を望む考え方から解きほぐしていく。
戦いを続ける中で怜司にも何かを諭されていたのだろう、九重は俯いて何かをじっと考え込んでいた。
「黒の騎士さんは、私がたくさん相談しても迷惑じゃない?」
「おう、俺を誰だと思ってる。メールボムだろうが、何だろうがドンと来いだ」
「……いや、メールボムは拒否るっしょ」
唯がしっかりと突っ込んでくるが今は無視する。
「だからさ、難しいことばっかり考えるなよ。自分で考えてみて分からなきゃ聞けばいいんだ。仲良くやろうぜ」
エンプレス・ロアは第三者からすれば、実際に接してみると思ったよりも緩い雰囲気に驚くかもしれない。
確かに命がかかっている中で遊び半分に戦っているつもりはないが、変異者同士が普通の日常を求めて集まったのだから楽しくやる時間があるべきだ。
そういう時間があるから戦い続けられるものだ。
「……ごめんなさい」
それを聞いた九重は俯いて、小さく声を絞り出す。
その様子を見る限りでは本当に自分の行動が間違っていたのだと思い直してくれたようだった。
「わかってくれればいい。俺だって落ち度がないわけじゃなかったからな」
「そ、そんなことないよ。確かに冷静になってみれば相談が足りなかったなって思うし。じゃあ、ついに黒の騎士さんの連絡先くれるの?」
「ああ、とりあえずはロア・ガーデンに書き込んでくれ。そうしたら返信する」
コミュニティー用に携帯を分けてあるとはいえ、ここで取り出せば一発で正体がバレるだろう。
連絡先を教えると言った途端に、九重は嬉しそうに何度か頷く。
そういえば、黒の騎士を尊敬しているのだと今更になって思い出す。
自分が崇拝される程の人間でないことは知っているし、今の仲間も信頼こそしても崇拝している者は誰もいない。
面倒なことになりそうな波長を感じつつも、この場で九重から聞き出すべきことがまだあったので口を開く。
「九重、一つ聞きたい。ハイドリーフのリーダーって誰なんだ?お前なら知ってるはずだ」
ハイドリーフは集団で構成された自由なチームとはいえ、そのチーム全体を統括している人間がいるはずだ。
それが九重ならば全てが丸く収まるのだが、違った場合は厄介極まりない。
「私がSNSとかは更新してたことも多いけど、リーダーは別だったよ。どこの誰かは知らないかな」
「本当かなぁ?まーた、嘘吐いてたりしないよね?」
「おい、唯。そうやって最初から疑ったら聞いてる意味ないだろ」
確かに九重はリーダーと断定するには仲間を連れてくることも少なかったし、人を動かす権限自体は持っていないはずだ。
この期に及んで人を欺く嘘を吐くとも思えない。
「あ、でも……私は管理局繋がりで黒の騎士さんと会おうとしたことがあったんだけど。SNSでやり取りしてるリーダーに却下されちゃった」
「……何て言われたんだ?」
「管理局は今、動かないから止めておけって」
管理局は他の人間に情報を漏らすほどに緩い組織ではない。
自分達の居場所も人員の総数も全てを一般の変異者には隠して行動しているのは付き合いの長い楓人達にはよく解る。
だが、九重の証言が本当ならばハイドリーフは裏で管理局と繋がっていた可能性が出てくる。
穏健派の変異者をネット上でやり取りして集める行動に明確なリターンがあるのは間違いないのだから。
いや、突き詰めるのはそこじゃない。
「―――九重はどうやって管理局に会おうとしたんだ?」
窓口はエンプレス・ロア側に設けられているので、そう簡単に管理局は尻尾を掴まれるような真似はしない。
九重の言い方では簡単に管理局に会える方法があるような物言いだった。
「私の知り合いにいるの。あんまり会えないけど、管理局の人と知り合いだって」
「……そいつは、どんな奴だ?」
九重は事も無げに告げたが、その答えで顔色が変わったのは楓人だけではなかっただろう。彼女は神妙に頷くとこう言ってきたのだ。
管理局に会えると言っていた人間は……。
―――紅の髪をした男だった、と。
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