第167話:漆黒の覚悟
都研の時間を終えるとカンナと二人でカフェへの道を歩く。
もう夏だと言うのにぽつりぽつりと降ってきた雨を眺めながら、成り行きで一本しかない傘に二人で入ることになった。
こんな光景を見られるとまた噂されるだろうが、今更のことである。
「カンナ、大事な人を疑うのって辛いもんだな」
周りには誰にもいないので楓人は久しぶりにカンナにそう溢す。
コミュニティーメンバーにも悩みがあったら素直に話はしてしまうようにしているが、心の内を抵抗なく吐露できるのはカンナだ。
仲間達にも全幅の信頼は置いているが、相棒への信頼とはまた少し種類が違う。
「辛いよ。でも、楓人と一緒に私もいっぱい悩むから。最後まで一緒に頑張ろうね!!」
「ああ、わかってる。カンナは俺の最高のパートナーだからな」
「うん、私にとっても楓人はすっごく大事なパートナーだよ」
今まで楓人を支えてくれた内の一人はカンナであり、彼女は全てを楓人に捧げてくれたと言っても過言ではない。
そんな彼女がいるからこそ友人や仲間を疑う辛さを背負っても戦えるのだ。
楓人が守りたいと願うものが敵になるかもしれないと思うと、白銀の騎士の正体が何であれ精神的に辛い戦いになる。
「カンナはもし白銀の騎士の正体が、俺が考えてる通りだとしたらどうする?」
「正直に全部話してぶつかる、くらいしかないと思うな」
確かにカンナは怜司のような作戦を立案する能力はないし、策を練るタイプでもないので全てにおいて頼れるかとい言うと難しい。
だが、彼女の真っ直ぐな意見は時として楓人の迷いを振り払ってくれる。
初心に返るだけでいいと教えてくれるのはいつだってカンナだった。
「そうだよな・・・・・・。さて、帰ったら作戦を考えようぜ!!」
「うん、そうしよっか!!」
むぎゅっと腕に抱き着くカンナを、極力意識しないようにしつつ帰路に着く。
「・・・・・・嬉しそうにしちゃって、まあ」
「そ、そりゃあ、好きな人と一緒にいて嬉しくない女の子はいないよ」
いい加減に結論を出さなければならないと思いつつも相棒に甘えてしまう。この胸の鼓動は何なのかと問いかけるも答えは返ってこない。
普通の恋愛であればとりあえず付き合ってみるだとか、それなりに好きな相手だから付き合ってみようとか恋愛の形は様々かもしれない。
だが、今のカンナとの関係は下手な恋人関係よりもお互いを理解してしまったせいで一心同体と言える域である。
変異者としての事情を抜きにしても、彼女との関係を進展させるならば一生恋人でいるくらいの覚悟が必要だ。
「ちゃんと結論は出すから。悪いな、少し待たせる」
「私も戦いが落ち着いてからの方がいいって思ってるから気にしないで」
楓人の非常にばつが悪そうな表情を見て気遣ってくれるカンナ。
まだ、はっきりとは口にするべきではないがカンナを好きなのは間違いない。
恐らくは異性としても、パートナーとしても。
しかし、楓人が同様の悩みを抱える相手がもう一人いることが最大の難関だ。
レギオン・レイドとハイドリーフの件が片付いたら少し落ち着きそうなので、何とか考えてみようと決意しつつもカフェの入り口を開けた。
「あっ・・・・・・フウくん、やっと帰ってきた」
「明璃も来てたのか。怜司に会いに来たのか?」
「べ、別にそれだけじゃないけどね」
照れ隠しにコーヒーにミルクを叩き込む明璃。
「私は明璃が会いに来てくれるのは嬉しいですがね」
そして、恋愛に関しては鈍いはずの怜司はからかうような色を浮かべつつ明璃を一瞥して微笑んだ。
どうやら明璃の好意はさすがの怜司でも、とっくに悟っているようだった。
これだけアプローチをかけた上に気持ちも伝えたようなので、楓人としても二人が上手くいっているのなら一安心である。
だが、そんな空気も次に出る話題を察して引き締まっていく。
「どうやらリーダーも覚悟は出来ているようですね」
「ああ、相手が誰だろうと俺は戦うしかないんだ」
怜司は相手が蒼葉北高校で時間を共に過ごした者だとしても、心に乱れはないかと当たり前の問いかけをしている。
楓人はレギオン・レイドの恵にもスカーレット・フォースの城崎にも“普通だ”だと評された。
それは誉め言葉であったのかもしれないが、本来ならば渡や紅月のように時に非情になれる者が変異者の頂点に立つのはふさわしいのかもしれない。
だが、戦いにおいて弱点にもなる情を抱えるからこそ楓人は戦い続ける。
この熱を失ってしまえば人間だと自信を持って言えなくなってしまう、他の変異者にもこの温度をなくしてほしくないから。
「頼んだものは準備出来ているんだな?」
「ええ、忍び込むのは骨が折れましたが……無事に準備してあります」
準備は完了した、後は楓人が覚悟を口にするだけだ。
別の日に新メニューの試食と称して都研のメンバーを呼び出してあるので、その場で正体を暴いて決着をつける。
呼び出した人間は右腕を怪我している者が二名、巻き込まない為に椿希には予定があるということにして断って貰うように頼んだ。
ついに黒の騎士は知人と戦うことになるかもしれない、その覚悟は完全に決まっていた。
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