第168話:誤解か真実か

 今まで一緒にいてくれた友人達には心から感謝しており、その気持ちはこれからも絶対に変わらないと断言できる。

 支えてくれた人々への恩義が楓人が戦う理由かつ原動力でもあるからだ。


 だからこそ、今回で全て明らかにする。


 二日後に最初にカフェに呼んだのは柳太郎の方だった。


 少なくとも学校生活を見ている限りは柳太郎は普通に生活して、何も不審な様子は見せなかった。色々と疑う筋はあったが、とある理由から柳太郎を最初に呼ぶことにしたのだ。


「つーか、お前らわりと店休みにしてるよな。経営は大丈夫なのかよ」


「休日にもお客さん来てくれてるし、ぼちぼちやってるさ。カンナも手伝ってくれてるしな」


「ねー、私もちょっとは役に立ってると思うんだ」


「ああ、助かってるよ。これからも頼むぞ」


「お前らのせいで更に暑いわ・・・・・・」


 三人での会話も特に違和感なく繰り広げられるのは付き合いの長さ故だ。

 互いにどう答えるかのリズムというか、テンポが構築されているので心理的な負い目があったとしても簡単にボロは出ない。

 カフェには学校から近いので、歩きながらの会話が中断するのも早い。


「怜司さん、お疲れさんです。何か新作料理って聞きましたけど」


「はい、私もあまり自信がないので手伝っていただけると助かります」


 怜司と柳太郎は二人とも楓人との付き合いは長く、以前より面識があるので話も気安く出来る程度の関係は構築されているのだ。

 もちろん、新メニュー自体は本当に存在するが、本来ならまだ試食を頼む程には製作が進んでいない代物なので味は保証できない。

 騙すような真似をしたのは本当に申し訳ないと思うが、白銀の騎士の正体を暴くにはこれしかないと判断した。


「そーいや、店内も少し変わったな。模様替えでもしたのか?」


「お客さんのことを考えて試しに少し変えてみたんだよ」


 柳太郎が店内を見回すが変わったのは鉢植えの位置だとか鏡等のインテリアの類で、以前から置いてあったものでしかない。

 模様替えというか配置換えに過ぎないが、柳太郎のような常連でなければ気付けない違いだっただろう。


「ちょっと待ってろよ。すぐ出来るから、そこで座っててくれ」


「おう、変なモン出したら返金させるからな」


「無料なんだから多少マズくても我慢してくれよな」


 軽口を叩き合いながら楓人は怜司に合図を送ると料理をスタートさせた。

 今回は少し重めの食事が出来るように新作サンドイッチを作る予定なのだが、その行動にはもう一つ、合図の意味が存在する。


 アレさえ確認できれば柳太郎が白銀の騎士かどうかはすぐにわかる。


 もちろん、その確認事項は傷口ではなく一瞬で判明するものだ。

 それを自分自身で確認する為に楓人はキッチンを移動しながら口を開く。


「なあ、柳太郎。こっ恥ずかしい質問するけどさ。俺達って友達だよな?」


「ああ、当たり前だろ―が。お前といると楽しいしよ」


 少し面食らった顔はしたものの、柳太郎は照れることなく笑顔で返してくる。

 楓人もその気持ちは同じなので疑いたくない気持ちはもちろん強かった。


「俺もそう思ってる。柳太郎には大災害で参ってた頃から助けられてるよ」


「その話はあんまり好きじゃねーな。恩売るつもりなんか微塵もねーし」


 あの時に自分が一人じゃないと教えてくれたのは椿希と柳太郎、後にカンナだったのは間違いない。

 それからも柳太郎とはいい友達として時間を過ごし、話も合う唯一無二の親友として家が近いという事情があったにしろ同じ学校に通うまでになった。

 柳太郎も都研やエンプレス・ロアのメンバー達と同様に心から信じられる人間なのは疑いない。


「ああ、悪かった。言いたいのはそこじゃなくて、俺はお前に隠し事してた」


「隠し事って何だよ?別にいいんじゃねーの、そんぐらいあっても」


 もう楓人の正体がバレることも覚悟して、この場に立っている。

 変異者であることを柳太郎に隠し続けるのも事情を加味すれば限界に来ているのは明らかだ。


「まあ、その前に言いたいことがあるんだけど・・・・・・いいか?」


「今日はやけに勿体ぶるな。何だよ?」


 そして、決定的な言葉を告げる。


 日常を都市伝説が侵食するのを感じながら、関係に亀裂を入れかねないことを突き付けるしかなかった。

 友人として大切に思っているからこそ確かめたい。



「お前が白銀の騎士だったんだな。確信したよ」



 怜司も調理の手を止めて、二人の会話に耳を傾ける。

 ここまで踏み込むのも事前に怜司達との話し合いの通りだったのだ。


「白銀の騎士・・・・・・?何の事―――」


「俺が模様替えした理由を知ってるか?アレをこっちに運び出す為だ」


「アレって・・・・・・えっ?」


 楓人は立てかけてあったモノの角度をずらして柳太郎にも見えるようにした。

 さすがの柳太郎も表情に驚きを浮かべて、カフェのある方向へと目を向けている。

 そこに置かれているのはただ一つの鏡であるはずだった。


 しかし、そこに映っているのは白銀の力を纏った騎士の姿だった。


「騙すような形になったのは謝る。でも、あれは変異者の力の形を映し出す。見つけたのは偶然だったけどな」


 以前に学校内を探索した時に自分の本当の姿が映る鏡を、椿希以外の全員で探したことがあった。

 その時に見つけた鏡をこっそりと怜司に回収して貰っており、準備しておいてくれと依頼しておいたのはその不思議な鏡だったのだ。

 夜間を利用して準備を整えて、カウンターに座るように促した柳太郎からは見えないように怜司が配置してくれた。


 明確な証拠とは柳太郎自身の姿を映し出すこと。


 もしも柳太郎でなければ次の光に当たるつもりだったが、柳太郎が最も怪しいと踏んでいたので最初に呼び出した。

 もう言い訳はできずに柳太郎はやれやれと言いたげに肩を竦める。

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