第156話:引き金
考え得る最悪のタイミングで、白銀の騎士は現れてしまった。
驚きとため息と頭痛が同時に襲ってくる奇怪な症状に見舞われるが、そんなことを言ってる場合ではないと必死で頭を回転させる。
“ふ、楓人・・・・・・もしかして、これ修羅場?”
“命がかかってるという意味で修羅場かもな”
アスタロトとなったカンナと密かに会話しつつ、まずは何か考えがあるであろう白銀の騎士の動向を伺うことにした。
慎重な男の印象なので、この場を収める考えがあって出てきたのかもしれない。
「ねえ、黒の騎士さん。アイツ、
「とりあえず、待てって。話を聞くのは大事だぞ」
跳んで火にいる夏の虫という言葉を思い出したが、とりあえずは偽物の手綱を握っておかなければ危険だ。
まだ制止すれば一旦は大人しくしてくれるようだが、白銀の騎士の言葉次第では抑えが利かなくなるのは明白だった。
楓人が自分を抑えて話し合いに持ち込まなければ、襲ってくる人間が多すぎて変異者絡みの事件は本当に神経が磨り減る思いだ。
「それで何をしに来たんだ?」
「ハイドリーフのメンバーで素性が知れている者がいる。そいつを張っていたらお前達の話が聞こえて来ただけだ」
「・・・・・・タイミング最悪だな、お前を簡単に殺させない為に人が話し合いに持ち込んでたのにさ」
さすがに尽力を無にされかかっているので愚痴の一つもぶちまけたくなる。
「甘いのはお前だ。最初から俺を狙えばハイドリーフの人間が手を下そうとはしなかったはずだ」
要するに楓人が半端な立場のままで白銀の騎士を放置したせいで、平和を望む人間さえも戦いに巻き込んだと言いたいらしい。
確かに色々な事情を除けば、反論が出来ない程に正しい意見だ。
「そうかもな。でも、お前が排除するべき人間だとは思えない。都合が悪いから殺人を冒すって言うなら烏間と同じだろ。本来なら殺人は・・・・・・どう取り繕っても悪なんだよ、どんな力を持とうとだ」
万感を込めて、この世界の真理を言い放つ。変異者になったことで人間は、己を強者だと認識して本能さえも塗り替わる。
だが、変異者だろうが関係がない絶対の倫理観を忘れたら本当に人間ではなくなってしまう。
知識欲を満たし、己の存在理由を見つける為に命を奪い続けた男を知っている。
烏間に直接手を下したのは紅月だが、楓人だってわずかに遅かったら烏間の命を奪っていたので知らない振りは出来ないだろう。
烏間という変異者がいたことを記憶に刻み込んでおくべきなのだ。
あんな悲しい生き方だけはもう許すわけにはいかないのだ。
楓人は変異者達には出来る限り人間として向き合うと決めた。
「その理屈で言えば、犯罪者を裁く俺は悪ではないのか?」
「お前は殺したいから殺してるのか?そうじゃないだろ。結論を出せもしないくせに、俺はお前が命を落とすのを見過ごすわけにはいかない」
過去に散々迷って揺らいで、ここまで歩いてきた。
だから、楓人が言っていることが破綻しているとしても止まりはしない。
この男を破壊することが正義だとは思えない。
「・・・・・・お前は本当に甘いな」
「変異者の言う甘さってのは、表の世の中じゃ情って呼ばれる大事な物なんだよ」
白銀の騎士はため息を吐くと言葉を吐き出すが、そこには今までとは違う感情が宿っているように思えた。
「では、どうする?俺を拘束するか?どちらにしろ、そっちの偽物は限界に見えるがな。一つ言っておいてやる。
それが、引き金となってしまった。
「———上辺を真似ようが、黒の騎士にも同志にも絶対になれない」
楓人ではない黒の騎士が地面を蹴り飛ばす。
最早、抑える気もない全力疾走で手にした槍を白銀へと叩き付ける。
それを落ち着き払って用意した白銀の剣が甲高い音と共に受け止めて、一色触発すら挟まない戦場が展開されていた。
「お前は・・・・・・殺すッ!!」
「怒りを見せるということは、思い当たる節があったのか?」
「私は黒の騎士の、伝説の力になる。お前なんかに・・・・・・何が解るッ!?」
声を荒らげながらも激昂して槍を更に押し込もうとするが、白銀の騎士は楓人の攻勢さえも凌いだ強力な変異者だ。
偽物の力は先程に知れているし、この程度の力で突破できる程に容易くはない。
「おい、止めろって言っただろ」
それでも止めるしかないと口を挟むが、今の偽物の耳には入っていない。
「・・・・・・ミラージュヴァイトッ!!」
それが偽物の
白銀の糸が周囲を覆っており、漆黒が白銀の力を併用する事態が目の前では起こり始めている。
その光景を見て、楓人にも偽物の騎士が持つ
加えて、制限はあるかもしれないが同時に能力を振るえるのは脅威だ。
「・・・・・・ッ!!」
さすがの白銀の都市伝説も手にした刃の形態変化を予測もしない形で解除されて、反応が間に合わなかった。
黒の騎士の槍をも防いだ糸の結界、それを完全ではなくとも再現した力を前に隙を晒すのは致命的だ。
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