第151話:進展


 話を聞く限りでは容疑者達は同じ大学に所属するメンバーらしい。


 蒼葉市の人間が行く大学は蒼葉大学か、蒼葉南の蒼南大学に多くは進学する。

 蒼葉市外で就職を志す生徒もいるので大災害のおかげとは言いたくないが、都市開発や観光系に強いツテを持つので入学する生徒数も多い。

 これから発展する広大な観光都市に必要な人材はまだまだ足りていないのだ。

 そして、クローバー達は長い付き合いの友人で話し合って同じ大学に行こうという話になったらしい。


 城崎がここの学生だということを自ら明かしたことも大きく、何とか彼女からはその素性を聞き出すことが出来た。


「じゃあ、改めてよろしくな。九重ここのえ……若葉わかばって名前だったのか。もしかしてクローバーって本名を文字ってたりする?」


「よ、よろしくお願いします。そうなんです、九重ので葉を合わせて……ちょっと無理やりですけど」


 少し照れくさそうに九重は笑顔を見せるが、アカウント名を決める時なんて誰しもそんなものだろう。


 現に楓人も仮の名前にしたフウマは真島楓人を文字っているわけで、恥ずかしい気持ちがしなくはない。

 ちなみに年齢の序列で言うならば城崎と九重が二十歳の大学二年生、楓人だけが十八歳の高校二年生である。

 敬語を使うかどうか迷ったが、楓人はあくまで対等という立場を保つためにもコミュニティー関係では敬語を使わないと決めていた。


 怜司にも最初に、コミュニティーの主として立場が下だと思われることがあってはならないと言われたのだ。


「まだ、二人なら大学にいるっぽいですけど大学に戻ります?」


「城崎、ちょっといいか?悪い、少しだけ作戦タイムだ」


 九重から思わぬ提案があったが、それに乗るかは悩みどころだ。


 会った所で何を確認するかが非常に難しい判断となるからだ。

 妙なことを言おうものなら警戒されて何か手を打たれる可能性もあり、簡単に接触を図るリスクを考えると第三者の意見なしの独断では決めかねる。

 誰が力を使っているかの証拠を上げるのは現状では相当に難しいと言えよう。


「まだ会わない方がいいと俺は思うけど、城崎の意見も聞かせてくれ」


「俺も普通なら反対だが、今回に至っては迷ってる。そもそも奴らの能力についての話がおかしいだろ」


「………能力を共有って話か?」


 城崎が頷いたのを見て、すぐに九重を容疑者ではないと信じ切れなかった違和感の正体に思い当たる。

 大災害で同じ場所にいたから能力を共有すること自体は絶対にないとは言えないが、納得いかないのはむしろその後だ。


「さすがに理解は早いな。能力を共有するタンクがあるとしたら、そのタンクはどこにある?」


 今までに能力の源となる力は例外なく自分の内にあって、それを烏間は火種と呼んで力を引き出していた。

 能力を仮に共有していることに納得するにしても、本来ならばそれぞれの変異者には別の火種が宿っているはずなのだ。

 火の玉を放つ能力を持とうが本人に火種が無ければ能力の発動はできない、そういうものだと紅月も示唆していた。


 今回の事件は必ずしも犯行に走る人間を探すだけでは終わらないかもしれない。


「四人の中かあるいはハイドリーフ内に、恐らくは能力の源を持ってる奴がいる。探すのはそいつだ、まずは四人を先に当たるのが正解じゃねえか?」


「……お前、頼りになるなぁ」


「使えないなら協力してる意味もないだろ」


 スカーレット・フォースの二人は戦力としては相当に高い水準を満たしている。

 唯は近距離限定で精密な探知を行うことが出来て、戦闘では無類の強さを発揮すると燐花からは聞いている通りだ。

 城崎は三人がかりでも突破できなかった鉄壁の防御を誇り、冷静に現状を把握する分析力を備えている。

 これだけのメンバーを派遣するということはリーダーに紅月からしても、ハイドリーフの存在は余程に都合が悪いらしい。


「一度、相手がどんな人間かを見ておきたい。エンプレス・ロアと言わせれば偽物の黒の騎士にも近付けるかもしれないからな」


「……それもそうか。それじゃ、会って話してみよう」


 確かにこれから監視を付けるにしろ、顔を知れるという意味でも面識を作っておくメリットはある。

 こちらの顔が知られるのが不利というのなら、監視の段階になった時には別の人間に頼めばいいだけの話だ。


 偽物の黒の騎士は明らかに意図的にどころか、瓜二つにまで黒の騎士に擬態して活動し始めているようだ。


 それを裏付けるように行動も犯罪者を潰すような行動が多いそうだ。

 そこでスカーレット・フォース側の情報網に引っかかり、今回のように手を組むことになったと城崎からは聞かされている。

 偽物は本物の黒の騎士の介入を少なくとも想定はしているだろう。

 ハイドリーフ内にエンプレス・ロアが接触していると噂が流れるのはむしろ大いに結構、そうすることで向こうからこちらに接触してくれる可能性が出て来る。


「そういえば、楓人は組織内ではどういう立場なんだ?ある程度の裁量は自分で出来るってことはそれなりの地位だろ」


 ふと疑問に思って訊ねる城崎も黒の騎士自らが顔を晒しているとは思うまい。

 本来ならばこんな無茶は避けたいところだが、唯には偶発的に顔を見られている上に紅月は調べようと思えば楓人の素性も判明するはずだ。

 場面は選ぶつもりだが今更になって逃げ回るよりも、時には前に出た方が逆に黒の騎士候補から楓人を外せる。


「まあ、副リーダーみたいなものだと考えておいてくれ。俺も複雑な立場でな」


「俺は、あんたらほど普通の変異者に始めて会った気がするよ」


 いつかレギオン・レイドの恵にも言われたことだった。


 変異者として戦う内に歪んでしまう変異者が多いのは間違いないが、楓人が普通でいられるとしたら普通の日常にこそ楓人の最終目標があるからだ。

 変異者によって、本来なら流れるはずだった普通で幸福な時間が歪められるのを自分にも他人にも許容できない。

 そして、気になったのは一見すると普通に見える城崎も普通ではないと言っているように聞こえた。


「まあ、その話は後にするとして戻るか。会うってことでいいだろ?」


「ああ、そっちの判断に任せる。俺はあくまで助っ人だ」


 そして、九重の元へと戻ると一度メンバーに会いたい旨を伝えることにした。

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