第150話:SNS
「まずは前提がないと始まらねえ。ハイドリーフってのはどんなチームなんだ?」
城崎がまずは情報提供を促したように、ハイドリーフというコミュニティーに関してはスカーレット・フォース側でも完全には調べきれてはいないらしい。
最初に必要なのは謎の多い団体についての実態を明らかにすることだ。
「呼び名のことはさっき言いましたけど、SNSみたいなチームって言った方がいいかもしれないです」
クローバーと仮名を名乗る少女は楓人と城崎が危害を加える人間達ではないと改めて安心してくれたのか、先程よりは明瞭な口調で語り始めた。
ハイドリーフが行っているのは鍵を付けたSNSでの普及だ。
巷で良く耳にする社会的ネットワークを構築するサービスの総称である。
ロア・ガーデンと同じパスワードを設定することでその中にはアクセスできて、それぞれが掲示板で仲間同士と親交を深める。
連絡先を交換したりするのは管理者が推奨しているわけではないが、特に取り締まられていないので密かに行う者も多いという。
変異者用のSNSと言えば妙な響きだが、色々な人が繋がるという意味では楓人も決して悪い試みではないと感想を抱いた。
ハイドリーフの取り組みが全て上手くいくとは思えないが、情報社会を活かした活動自体は今後に反映できるものもあるかもしれない。
だが、全体で言えば一時の平穏でしかないことは今回のような事件が起こったことではっきりしてしまったのだ。
「随分と現代的なことやってんだな。そんで上手く行けばいいけどよ」
「・・・・・・上手く、行っていたと思ったんです。でも、私達の周りにご存知の通りの事件が起こりました」
「それは君がロア・ガーデンにも書いてくれた事件なのか?」
「・・・・・・は、はい」
続けて、彼女が話し始めたのは以下のような内容だった。
元々、クローバーというアカウント名で活動する彼女には互いに知っている友人達がいた。
大災害の時からクラスメートとして仲が良く、一緒にいる時に被害を受けて変異者としての覚醒にもほぼ同時期に気が付いたのだ。
メンバーは友人の彼氏である男を加えて総勢四名、内訳は女子三名に男子一名。
別に男女が混ざっていると言っても一人と明確な恋愛関係ということもあって、特に問題は発生しなかった。
いつも通りに遊んでは夜の公園でひっそりと能力を振るって満足する程度の楽しみ方をしていたのだ。
人を襲う度胸もなかった上に犯罪に手を染めて捕まるのは御免だとメンバーも口を揃えて言っていた。
ハイドリーフのメンバー達とも交流を重ねて、信頼できると思えば会って自分達の境遇談義に花を咲かせたりもしたのだ。
提唱された理念通りに変異者達は穏やかに仲間同士が手を取り合って、真の意味のコミュニティーとなっていたはず。
「だけど、私達は気付いたんです。四人の内の誰かが知らない所で能力を使っていることに」
「ちょっと聞きたいんだけど、それはどうして気付いたんだ?探知みたいなことができる人間がいるってことか?」
「・・・・・・私達の力の総量が見えるんです。赤い塊みたいなイメージで、少しでも使うと減っているから」
少し俯いたクローバーは地面を見据えて、ぽつりぽつりと自分達の力についても言及していく。
要するに四名が同時に覚醒したことによって、能力を使用できるエネルギー総量までも共有している。
それが減少していれば、四人の内の誰かが無断で使用しているということだ。
少し前の流し素麺の時に柳太郎から聞いたのは炎で人を襲った者がいる事件だったが、その犯人だと他の三人は気付いたのだろう。
こうして相談してきた以上は可能性は薄いかもしれないが、目の前の少女も容疑者の一人である事実に彼女自身も気付いている様子だ。
最初に会った時に怯えた態度を見せたのは、楓人達と初対面というだけではなさそうだった。
「・・・・・・それだけかよ、あんたらが起こした事件は?」
「・・・・・・は、はい。たぶん、としか言えないですけど」
物静かで不愛想な城崎の言葉にクローバーと名乗る少女は身を縮めた。
城崎が確認したのは偽物の騎士の事件に繋がるかだろうが、現状では特に繋がる情報は出ていない。
そこを少しばかり突いてみるとしよう。
「エンプレス・ロアについての話は出たりもするのか?」
「は、はい。私も黒の騎士さんには助けて貰いましたし、皆の為に必死で戦ってくれてるんですから。今の私達にとってなくてはならない存在なんです」
クローバーは微かに頬を紅潮させて力説し始める。
どちらかと言えば否定されて来たことの方が多かったが、烏間のように真っ向から否定する者あれば彼女のように肯定する者もいるということか。
そういった英雄像として黒の騎士を担いだのはエンプレス・ロアだが、それが必ずしも良い方向ばかりに働かないと思い知らされた気分だ。
無論、応援してくれる気持ち自体はとても嬉しいものだが。
「黒の騎士はウチのメンバーだし、それは嬉しいけど何か最近になって話題に上がらなかったか?」
「・・・・・・そういえば、最近は黒の騎士に協力しようって人も出て来ているみたいです。今まで通りに傍観する派の人がまだまだ多数ですけど」
中空に視線を迷わせて考え込むと、クローバーは再び視線を楓人に戻した。
城崎から事前に聞いていた情報とほぼ同じではあったが、専用のSNSでまで話が出ているとなると思った以上に広がるのは早いかもしれない。
抑えの効かない熱は燃え広がって、大きな火事となりかねない。
増してや数が多いだろうハイドリーフが熱に浮かされれば最悪の事態を招きかねないのだ。
だから、予定よりも早めに手を打とうと決めた。
「そうか、それは一旦置いておくとして・・・・・・他の三人のことについて聞かせてくれないか?」
「・・・・・・・・・」
「俺達は平穏に暮らしたい変異者の為に戦うし、その理念に反することは一度だってしたことがない。だから、信じてくれないか?」
狡い言い方だとは自覚しているが、彼女のエンプレス・ロアに関する信頼を利用する形で情報を引き出すしかなかった。
こういう形での情報収集は気が進まないが、今はそこまで贅沢も言ってはいられない状態なので仕方がない。
そして、彼女は決意を固めたようで力強く頷く。
ようやくハイドリーフに関しては一歩前進の兆しが見えそうだった。
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