第147話:疑惑の組織
翌日、楓人とカンナは再び管理局を訪れていた。
偽物の黒の騎士が出現していることを協力者としては報告しておくべきだと考えたこともあるが、管理局の指揮を執っている者が会いたいと言い出したのだ。
楓人も一度は顔を合わせたことがあるが、ガタイの良さに反して物静かな男だったことは記憶に残っている。
白銀の騎士も烏間も以前、管理局を信用できないといったニュアンスのこと言っていたはずだ。
無論、楓人とて無条件で管理局が良い団体だと信じ切っているわけではないが、放銃が得られる上に活動する際の隠ぺいに一役買ってくれるのは大きい。
何か思惑があろうと変異者達の争いがなくなるまで切っても切れない関係だ。
これだけの戦力を有しながらも管理局と手を組む穏健派であるエンプレス・ロアは先方からしても絶対に切れない相手であって、大体の無理は通してくれる。
「楓人、元気そうだな。私は今回は案内をするだけだが」
「ああ、何とかな」
父親の遼一が管理局までの送迎を担当し、カンナと二人で車に揺られる。
外ですれ違う車や街路樹に目をやって、肉親にも関わらず残る重苦しい気まずさを誤魔化した。
「雲雀さん、楓人と仲良くやってくれているようで礼を言いたい」
「そんな、私が楓人と一緒にいたいってだけですから」
遼一が何とか父親であろうと歩み寄っているのはわかる。
自分の過去に犯した過ちを悔いていることも、本来ならば父親の資格がないと考えていることも全て知っているつもりだ。
昔は楓人も父親を憎んだものだが、迷いの中で歩み寄ろうとしている不器用な男に罵声を浴びせることはどうしても出来なかった。
悔いる人間の意志を踏みにじれば、コミュニティーが掲げる理想すら空虚なものに思えてしまいそうだったのだ。
現地に到着すると遼一は施設内の奥にある一室に楓人達を案内して去っていく。
「帰りは送っていく。失礼のないようにな」
「ああ、わかってるよ」
部屋のドアにノックをすると応答があって、中へと足を踏み入れた。
内部の奥にあるデスクには一人の男が腰かけている。
年齢的にはもう四十はゆうに超えているだろうが整えられた髪はまだ黒く、鋼を思わせる強い意志を込めた瞳が二人を眺めた。
「よく来てくれた、楓人くんに・・・・・・雲雀カンナさんだったか。彼女と会うのは初めてか、私は都市人類管理局の局長をしている
穏やかな口調ながらその声には鋼の色が滲み、その身長こそ高くはないものの灰色のスーツの上からでもわかる鍛え上げられた肉体が印象に残った。
「今回、報告しにきた件ですが―――」
用件は偽物の黒の騎士がネットでの報告もあるように出現していること。
蒼葉東での活動を中心にしており、現在はその対応を行っている旨を改めて正式に報告を行って今後の協力を仰いだ。
もしも、黒の騎士が暴走したなどと噂が広まれば管理局との関係にも亀裂が入りかねないので先に手を打ったのだ。
だが、その中でもスカーレット・フォースと手を組んだこととハイドリーフのことは言わなかった。
情報としては曖昧なものもあったし、事細かに動向を説明する義務までは背負っていないと考えているからだ。
エンプレス・ロアは管理局に使われる直轄の組織ではない。
「成程、黒の騎士・・・・・・君の評判が落ちるのは我々としても良い事ではない。情報収集という面で協力できることもある。我々の助力が必要な時は遠慮なく言ってくれ
「・・・・・・変異者の情報収集は容易ではないはずです。それをどうやって集めているんですか?」
楓人は口を開くと今までは踏み込んでこなかった領域へと足を踏み入れた。
管理局は今までにエンプレス・ロアを裏切ったことはないし、報酬の額も十分に働きに見合うものだと言えよう。
ただし、全面的に管理局を信じているわけではない。
不審な点はこの組織には幾つかあり、その一つが質問の内容だった。
「一般市民からの情報も馬鹿に出来ないものだ。人々の目と耳、それは情報社会では網の如く張り巡らされる」
まるで動じる様子もなく御門は回答を寄越すが、一般市民の情報だけで場合によっては敵の個人情報まで特定できるとは思えない。
やはり、この組織は何かを隠しているのではないかと疑問が広がっていく。
御門の穏やかな笑みからは何も読み取れず、楓人の不審でさえも看破してるように思えてきてしまう。
「安心してくれ。君達を裏切る真似はしないと責任者として約束しようじゃないか。それに・・・・・・我々はエンプレス・ロアの助力で成り立っている。その事実は疑いようがない。そうではないかね?」
管理局が裏切るとは思っていないし、仮にも国の方針がそこには入ってくるはずなので非人道的な行いが出来るとも思えない。
しかし、何か情報を持っているのは間違いはなさそうで、例えば管理局は本当に六年前の大災害について何も知らないのか。
何も知らないにも関わらず変異者の拘置所を用意していたりと、あまりにも対応が早すぎるのではないか。
―――まるで、楓人達のような変異者達が現れるのを予見していたかのように。
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