第148話:内通者

 だが、管理局とて自分達に疑いの目を多少なりとも、向けられていることはとっくに知っているだろう。


 それでも、楓人達と管理局の間にあったのは互いの主義主張に関しての理解と、上げて来た成果に対する信頼だ。

 例えばエンプレス・ロアにとって、管理局は迅速な事態の対応を行ってくれたという実績がある組織だ。

 同時に管理局にとっても似たようなことが言えるので、それが二つの団体を結び付けている最大の要因だった。


「こちらが管理局を疑っているはずがないじゃないですか」


 表向きは強固な信頼関係で結ばれていることにしなければならない。

 少なくともお互いに利害はこれからも一致し続けるだろうし、お互いが敵同士になる痛手こそあれ利益などない。


「こちらこそ気を悪くしたら申し訳ない。これからも力を貸してくれると助かる」


 決して黒の騎士を名乗る若造だと侮らずに御門は頭を下げて一礼した。

 その下手に出た態度で図に乗ったわけでは断じてないが、誰が相手でも慇懃な態度を崩さない所は素直に好感が持てる。

 食えない男だという評価は全く変わりはしないが。



 あまり長居をする気もなかったので、運ばれて来たコーヒーを飲み干しながら雑談を交わすとその場を辞することにした。


 だが、その場で楓人はふと思い出した様子を装って御門に訊ねた。


「そういえば、大災害の真相に関する情報は進展がないんですか?」


「ああ、難航していてね。六年前の資料を集めて目を通すだけでも一苦労だ」


「では・・・・・・紅月柊という男を知っていますか?」


 聞くかは大分迷ったが、意を決して楓人は御門に訊ねる。

 本当に知らなかった場合にスカーレット・フォースの情報を与えて勝手に動かれるリスクもあったが、この場でどうしても確認しておきたかった。

 御門は表情も全く変えずに落ち着いたトーンのままで聞き返してくる所を見ると本当に知らないのだろう・・・・・・と思うのが普通だ。


「いや、知らない名前だ。それは誰だね?」


「知らないならいいんです。失礼します」


「君達には今後も期待しよう。この街に平穏と平和を、誰もが抱く祈りだ」


 そして、局長室を出ると楓人とカンナは息を吐く。

 穏やかで慇懃な態度の中に妙な威圧感を感じ続けていたので、精神的にはただ話をするよりも遥かに疲弊していた。

 だが、最後の質問はリスクを冒しただけだあって確実な収穫があった。

 表情も声も変化はなかったが、意表を突いたのは間違いなく妙な沈黙があったことを楓人は見逃さなかったのだ。


「・・・・・・少しずつ、調べておくか」


 確実とは言えないが、紅月柊と管理局に何らかの関係があってもおかしくない。

 渡と紅月が交戦した時に聞いた情報でも管理局にツテがあるようなことを言っていたと聞いている。

 管理局を完全に疑う姿勢は見せられないが、情報を握っておいて損はない。


 帰りに車で送られて蒼葉北駅に戻ってくると、怜司から着信があった。


「どうした?何かあったのか」


 怜司から連絡がある時は急を要する事態か、重要な情報が手に入った時だけだ。


『リーダー、ロア・ガーデンを今すぐに確認することは可能でしょうか。少しばかり話が変わってきたようです』


「ああ、わかった。ちょっと待っててくれ。カンナ、携帯であそこに繋げるか?」


 ロア・ガーデンの名は念の為に伏せながらもカンナに伝えるとすぐに察して、ロア・ガーデンのページを立ち上げてくれた。

 その管理者画面に書かれた内容を見て、楓人とカンナは顔を見合わせた。


「怜司、どう見る?」


『罠だろうと乗らない手はないですね。今は少しでも手掛かりが欲しい所を向こうから接触してきてくれたのですから』


「わかった、皆への連絡は頼んでいいか?」


『はい、私から伝えておきましょう』


 怜司から見てもやはり状況は好転したと見てよく、再び書き込みを眺めると楓人はこれから会うはずだった二人にメッセージを打ち込んだ。

 ここまで具体的な手掛かりが出てきたとなると話は全く変わってくるからだ。



 そして、少し早めの四時頃には以前に集まった公園に四人は集結した。



 集まったのは言うまでもなく以前に手を組んだ四名で、ロア・ガーデンに書き込まれた文面をコピーしてメモ帳に添付したものを見せている。

 信用すると決めた相手だとしても、管理画面を別のコミュニティーの人間に見せるべきではないと考えたからだ。


 ロア・ガーデンにあったタレ込みの内容は以下のような内容だった。


“私達は能力を共有しており、ハイドリーフに所属する変異者です。それらを今までは精々が悪戯の範疇に収まることで使ってきました。しかし、最近になって妙なことが起こったので連絡させていただいた次第です”


 概要欄ではこんな所だったが、詳細はその下に記載されていた。

 城崎はそれを読むと“くだらない話だな”とでも言いたげに露骨に面倒臭そうな顔をしながら現状を分析していく。


「要するに能力を共同管理していた変異者達がいたが、その中で悪用する奴が出始めたってことか」


「そもそも能力の共同管理ってあるの?わたし、そんなの見た事ないからさ」


「本人たちがそうだって言うもんは仕方ねえだろ。今はその前提でやるしかない」


「ああ、裏があるにしてもまずは相手の言うことを信じてみないと話が進まないからな」


 城崎の言う通りで相手の話をしっかりと理解しなければ疑うこともできない。


 今回あった話は変異者としてはありがちというか、有り得そうな話ではあった。

 変異者として能力を共有していたグループの中から裏切り者が出て、疑心暗鬼になっている空気が耐え切れなくて、内一人がエンプレス・ロアを頼ったのだ。

 ハイドリーフ内の情報を得られる機会を得たのだ、これは参謀の怜司でなくとも好機だと捉えるだろう。

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