第118話:昔馴染み
不意に現れた漆黒の騎士に対して、人形達は体を軋ませて感情のない戦意を明らかにした。
どうやら人形には純粋に戦意に反応した戦闘を行う物と偽椿希のようにある程度は詳細に操れる物があるらしい。
この場合は前者だが、迷いも予備動作もない機械的な動きと速度が厄介だ。
だが、それは黒の騎士の前には当てはまらない。
「人形なら遠慮なく潰してもいいんだよな」
今まではどうしても人間相手で無意識の加減があったと言えよう。
だが、この感情無き人形共が相手ならば遠慮することなく破壊せんと黒槍を振るって身を躍らせた。
槍を手首の返しで自在に操ると一体の四肢を潰し、額を打ち砕いて容易に木偶を退ける。
これは纏まって襲ってくる集団の体勢を崩すのが早いか。
「・・・・・・アスタロト、
放り投げた槍は漆黒の十字架型の杭となり、先頭を駆ける人形の脚部を的確に貫通して地面へと縫い留める。
杭から零れるのは同じく夜の色をした鎖、そこから鎖は生きもののように走って敵を絡め取っていく。
縫い留められた一体と戦闘の敵を捕縛したことで後続の人形共も態勢を崩す。
いかに人形と言えど動きの構造は人間の変異者の域を出ない。
連携もなくただ敵に群がるだけなら先頭を潰せば必然的に後ろの敵にも影響が出ると読んだ一手だ。
そして、ここまで崩せば後は簡単だ。
「———
瞬時に漆黒の嵐で全員を一か所に押し込めると竜巻めいた黒い塊が人形を纏めて圧し潰していく。
楓人の拳が握られて鋼がひしゃげる音と共に全身を砕かれた人形の残骸が後には降ってきた。
過去にカンナとは強くなる為に色々なことを話し合った。
“相手を上手く縛れる武器は作れないか?”
“うーん、でも縛るのって結構難しくて。せめて、何か支えがあればいけるかも”
“じゃあ、こんな感じで地面に杭を打ち付ければ行けるか?”
“それなら大丈夫、イメージがちょっとしづらいなぁ”
“これで行こう、わかりやすいだろ”
“・・・・・・ど、独特な絵でいいと思うよ。うん”
そんな風に自分達が出来ることは昔にやりつくしたと言える程に、戦う手段を探り続ける日々を送っていた。
裏の林まで行って一緒に隠れて練習したりと、二人のイメージをぴったりと合わせる為に数えきれない程に額を突き合わせて
楓人の描いた下手糞な絵がそのまま反映されるわけではないが、カンナの出来る範囲でイメージを共有するのは展開の素早さにも大きく関わる。
現代社会で鍛錬を積める機械の少なさを考えると、
普通に生きる為、他人を生かす為に全力で考えてここまで強くなったのだ。
その信頼できる相棒との研鑽がこんなガラクタ程度に劣るはずがない。
「さて、椿希の様子でも見に行くか」
唯の所にはもう燐花が到着しているはずなので心配する必要は薄いのでまずは椿希が無事かどうかを確認しておくべきだ。
表の人々の様子は椿希の元にいる彗が見てきてくれているはずなので、そこに行けばどちらの安否もわかるだろう。
“柵を降りた所から右に真っ直ぐ行けば椿希と彗くんがいるよ”
“今更だけど、俺達って階段使わなくなってきたよな・・・・・・”
椿希の所にも人形が行っている可能性はあるが、その為に彗を付けたのだ。
そして、カンナの言う通りに進んだ先には彗と椿希が待っていた。
「あ、早かったっすね。さすがリーダー」
彗は相変わらず陽気に応じるが、その足元には粉々になった人形の頭の破片が転がっている。
椿希も怯えてはいたが、前回も救われた彗に対してはそれなりに信用している様子が見て取れた。
彗は鈍い銀色の鋼が手の甲を覆うグローブ型の
「ああ、お前も無事で良かった。避難した人達の様子は見たか?」
「大丈夫だったっすよ。まあ、心配ならこの後は俺がそっち見るんで」
「わかった・・・・・・。その子を連れて表まで逃げてくれ、お前に任せたぞ」
「了解、任されましたってね」
彗はこの軽い様子とは裏腹に、よく動いてくれる上に実力も折り紙付きなので安心して任せられる。
だが、そこでじっと黒の騎士の姿を取っている楓人を眺める椿希に気が付いた。
先程も椿希と名前を反射的に呼ぼうとしてしまって焦ったのだが、何か不審なことをしてしまっただろうか。
「ま、また助けてくれてありがとう。何てお礼を言ったらいいか分からないわね」
楓人の方に視線を向けて、はっきりとした口調でお礼を言ってくる。
また襲われてまともに口が利けるだけでも大したものだが、もう彼女を巻き込むのもこりごりだった。
それでも真っ直ぐに向けられたお礼に対して、咄嗟に頬を掻こうしたが鎧であることに気付いて手を引っ込めた。
「また巻き込まれるとは運がない奴だな。大人しくしておけ」
この姿で椿希を前にするとどうにも調子が狂う。
以前はまだ塔から飛び降りたりと直接に話をする機会は少なかったので誤魔化せたがボロが出そうだ。
早々に唯と燐花の様子を見に行くとしようと考えて逃亡することにした。
どうにも敵と戦うよりも何の力を持たない椿希とこの姿で向き合う方がよっぽど苦手だった。
そして、楓人がその場を去ろうとした時だった。
後ろから草を踏みしめて近付いてくる音がして、足音の軽さから椿希であろうことは察していたので心を鬼にしてそのまま進む。
「ちょっと、待ってよ・・・・・・」
「何か用か?俺はお前に構っている暇は―――」
心が痛むがこれ以上は関わらせない為にも、椿希と今は関わりを持ちすぎるべきではないと思っていた。
だから、軽くあしらって歩みを早めようとした時だった。
それはいつから辿り着いた結論だったのか。
「待ってよ・・・・・・楓人」
零れ出した彼女の小さな声に、黒の騎士は足を止めざるを得なかった。
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