第111話:謎の少女
宇宙と言えば何でも許されそうな設定こそ引っ掛かったが斬新さはこの場の全員が認める所だった。
宇宙空間らしさを出す為に銃を振った方向と強さで銃身が流されるので、隙をなくす為に小さな動きを意識して立ち回るのが正解である。
しかし、小さな動きのみだと画面端から襲撃してくる敵への射撃が追い付かず、仲間と連携して隙を消す作業がそこで重要になってくる。
謂わば閃光弾に近い概念の武装を投げ込んで敵の動きを止められる救済措置を使いこなすのも重要だ。
場合によっては思い通りに動けないので人によってはイライラ度は高いが、唯が言っていた最初にプレイする分にはというニュアンスの意味をようやく椿希とカンナも理解した。
「やりづらそうね、これ・・・・・・」
「ツバッキーも終わったら一緒にやってみようよ」
「でも、これすっごく楽しいね!!」
カンナには下手にスキルが培われておらず、自然体で素直な彼女の性格が幸いしたようであっという間に宇宙空間での戦いを会得しつつあった。
唯もやり込んだというだけあって戦い方は熟知しており、大小の動きを上手く使ってカンナをフォローする。
短時間とはいえ最初にカンナが順応するまでの負債があってトップとはいかなかったが僅差で二位のスコアを獲得することができた。
むしろ、問題はその後にプレイした椿希の方だった。
「・・・・・・屈辱だわ」
「ツバッキー、もうちょっと力抜いた方がいいよ。これ、最初はそーっとやった方が楽だから」
椿希は手先は器用な方だが、どうしても宇宙空間での戦い方に順応するまでは時間がかかった。
しかし、唯の熱心なアドバイスによって何とか辿り着いた終盤に差し掛かる頃にも持ち前の対応力を発揮してクリアまで漕ぎ着けた。
「・・・・・・やたら疲れるゲームね」
「あははは、ツバッキー途中までガチガチだったもんね」
「どうしても勝手に体が流されるのに抵抗してしまうのよ。大分慣れたけど」
「椿希はこのモードやったことなかったし、普通の方が上手いからやりづらかったのはあるかも」
「ええ、多分それもあったわ。こっちはカンナの方が上手そうね」
先程のゲームの感想を述べながら三人は他のゲームを幾つか物色する。
底抜けに明るくてリアクションが大きく、一緒にいて自然に楽しい空気にさせてくれる唯は二人とは非常に相性が良かった。
そして、カンナと椿希が親交を深める意味でも皆で遊べる空気は大きな意味を持っていたのだ。
しかし、他のゲームを堪能した段階で唯は帰ると言い出した。
「ごめんっ!!ちょっとこの後は用事があるんだ。あんまり待たせるのも悪いし」
「時間大丈夫?ごめんね、引き留めちゃって」
「用事なら仕方ないわね。この辺りで解散しましょう」
「ありがとね、超楽しかったよ!!」
無論、カンナと椿希はまだ一緒に色々と回る予定だが唯はここでお別れだ。
また一緒に遊ぼうと約束を交わした唯と連絡先を交換して、二人はゲームセンターで彼女と別れた。
思わぬ出会いで楽しい時間を過ごせた三人の表情は満足げで、椿希がカンナにあった遠慮に近いものも思いっきり遊んだ今は完全に吹き飛んでいた。
「私達もどこか行きましょうか。カフェか何かで甘い物でも食べる?」
「あ、いいね。美味しい
二人は仲睦まじく会話をしながら次の場所へと移動する。
―――だが、二人が
「ね、どうして私達のこと見張ってたの?変態さんかな?」
にこやかながら射貫くような視線を以て、楓人の目の前に一人の少女が立つ。
深い藍色の水晶の嵌った髪留めに背中まで伸びた髪、それは楓人も見ていたゲームセンター内でカンナ達と一緒に遊んでいた少女だ。
今は敵が近付かないかに注力しているので見知らぬ少女の登場は十分に警戒に値したが、彼女は二人がゲームセンターに入ると決める前からいたのは楓人は偶然にも確認していた。
だが、尾行を勘付かれた上に少女の方から接触して来るとは予想できるはずもなかったが今は狼狽えても仕方がない。
「気のせいだって言っても無駄か?」
「まあ、それは通報エンドだね」
「俺はあいつらと真っ当に友達やってるし、無論ストーカーでもないぞ」
「ふーん。じゃあ、尾行してた理由は?」
「カンナって言ってわかるよな?あっちがストーカー被害に遭っているかもしれなくてな。一応、俺はあいつとは親戚だし見張ってたんだよ。疑うなら連絡を取って本人に確認してもいい」
カンナには申し訳ないが今は不審がらせてしまっては面倒なことになる。
居場所のメッセージは来ているので見失うことはないし、燐花も見てくれているはものの足止めを喰らうのはよろしくない。
事実としてストーカーうんぬんは全くの嘘っぱちかと言うとそうでもない。
思いのほかあっさりと少女は剣呑な雰囲気を解いた。
しかし、その後の発言にさすがに楓人も動揺らしきものが一瞬だけ表情に浮かんでしまった自覚はあった。
「うん、大体わかったよ。エンプレス・ロアの人だよね?」
悪戯っぽい顔で笑って彼女は自分の質問が間違っていないことを確信してしまったようだった。
そもそも、楓人が動揺したのは目の前の相手がかまをかけている様子でもなく察しているのが伝わったからだ。
「私、近くに寄ってじっくり匂い嗅ぐって言うか雰囲気?で変異者かどうかわかっちゃうんだよね」
「そっちの方がよっぽど変態っぽいけどな」
「失敬な・・・・・・!!まあ、とにかくあなたとカンナが変異者だってことはわかったよ。別にカンナは友達だから危害なんか加える気はないから安心して」
「それを信用しろって言うのか?俺がエンプレス・ロアだって知ってるってことは俺がなぜ尾行何かしてたかも知ってるはずだろ」
突然目の前に現れた怪しい変異者らしき少女を信じろと言う方が無理がある。
それにエンプレス・ロアと知っているということは敵と組んでいる可能性が高いということで最悪の場合は楓人を足止めしようとしているかもしれない。
カンナ達と遊んでいる様子を見る限りでは悪い人間には見えなかったが、今は一度は疑ってかかるべきだ。
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