第110話:意気投合?-Ⅱ

「その制服って確か蒼葉東高校よね。こっちに学校が終わってから来たの?」


「そうそう、住んでるのはほぼ北だからたまに来るんだよ。蒼葉東高校二年、天瀬唯あませ ゆい。以後よろしくっ!!」


 同い年とわかって彼女に残っていた遠慮もなくなって、椿希とカンナは友好的な態度を継続しており、コミュニケーションにも問題のなさそうな唯と親交を深めることに異存はなかった。


「私達は蒼葉北の二年生。私が雲雀カンナ、こっちが夏澄椿希。こちらこそよろしくね」


「あのさ、私達が同い年なのも何かの縁かと思うし・・・・・・良かったら一緒にやらない?」


 唯は少し遠慮がちに二人へと声を掛ける。

 先程のテンションで引かれている可能性が頭を過ったのかもしれないが、素性も知れて人格的にも問題なさそうな相手と一緒にゲームをする程度のことを断る二人ではない。


「うん、いいよ。じゃあ三人で回そっか」


「もし、問題なければ私達と天瀬さんは一回ずつやりましょう。回数が増えてしまうけど大丈夫かしら」


「オッケー、それでいこ。じゃあ、先に・・・・・・うーん、ツバッキーからどう?あ、私のことは唯でいいから」


「・・・・・・人生で初めて付けられたあだ名だわ。と、とにかくやりましょう」


 冷静沈着な椿希でさえもそのネーミングセンスには戦慄したが、諦めたように筐体にコインを投入し始めた。

 カンナはまだ二回目なので先に経験者達のプレイを見たいと言い出し、先に椿希と唯でゾンビ共に挑むことになったのだ。

 椿希は唯ほどにこのゲームに熟練しているわけではなかったが、普通の人間から見れば上手くなってしまった理由が実はあった。


 それは単純明快で、相方である楓人が乗り気な癖にこのゲームがあまり上手くなかったからである。


 金銭を無駄にせずにクリアするには器用な椿希が上達するしかなかったのだ。


「このクソゾンビ・・・・・・じゃなかった、静かに静かに」


 時折、出そうになる罵声を辛うじて堪えながら唯は銃撃戦を難なく行うが、カンナから見てもその構えは変わっていた。

 左利きなのか左手だけで銃を握り締めて、全くぶれない手首の動きで銃身を安定させている。


 まるで右腕を意図的に使わないようにしているかのようだった。


 しかし、それでも唯の射撃制度は正確無比にゾンビを打ち落としていくが椿希がゲームを楽しめるように一定数の敵は残して椿希の元に送っているのに敏い椿希は気が付いていた。

 どうやらゲーム自体は楽しんでいても他人と一緒にいる時は周囲に目が向けられる人間なのだろうと内心で椿希は安堵する。

 もしかすると、何か夢中になると強制的にテンションがハイになってしまう人かと少しだけ危惧していた面はあったからだ。


 それにしても椿希もある程度は慣れているが、唯の手慣れ方は銃が体の一部に近いレベルで洗練されている。


 唯と椿希の連携は次第に磨かれてきて、唯の他に割くリソースも大分減って来たおかげで戦況には常に十分な余裕があった。

 無論、あっさりとハードモードのストーリーを筐体内の過去の記録から見てもダントツのスコアにてクリアという偉業を残した。


「ナイス、ツバッキー!!」


「あまり力になれなかったけど、クリア出来て良かったわ。それと・・・・・・そのあだ名は固定なのね」


「そんなことないって!!このゲームは確かに相当やり込んだけど、わたしって結構周り見えなくなることあるからさ。ナイスフォローだったよ、こっちこそありがとね!!」


 人懐っこい笑顔の唯に乗せられる形でハイタッチを交わすとカンナと椿希が交代することになった。

 ストーリーモードの一つはクリアしてしまったものの、このゲームには幾つかのモードがあってそれぞれ全く違うシューティングゲームにが楽しめるのも売りの一つだ。


「カンナはどれがいい?私は何でもいいから選んでいーよ」


「えーっと、この宇宙編っていうのは何なの?」


「・・・・・・そこはかとなくクソゲーの匂いがするわね」


「初見でやる分にはかなり面白いと思うよ。じゃ、これ行ってみよう!!」


 ゾンビゲームに唐突に出現した謎の宇宙編のアイコンを唯が銃で撃ち抜いて宇宙編はスタートしてしまった。

 上級者の唯からもお薦めだということで、椿希が心配するように所謂クソゲーであることはないだろうと思い直したのだ。

 初見でやる分にはという枕詞がカンナも椿希も気になっていたが、ここは黙ってまずはやってみることにした。


「・・・・・・素朴な疑問だけど、宇宙にゾンビって存在できるのかしら」


「うーん、私は無理だと思うなぁ。一応、人間と同じジャンルじゃない?」


 張り切る唯に対して、部内の雰囲気によって突っ込み及びスルースキルが向上していた椿希とカンナは至極冷静な会話を繰り広げていた。

 奇人・光と愉快な仲間達を抑え込もうと、時には八面六臂の突っ込みを披露する燐花の犠牲は決して無駄ではなかったということだ。


「ゾンビって人が発酵しちゃったやつでしょ?無理っぽいけど、まあ宇宙ゾンビって設定だし」


 鮭にマヨネーズをかけた物体が鮭マヨである、と言うようなあっさりさで宇宙編を取り巻く謎の設定が明かされる。


「ゾンビを納豆みたいに言うわね」


「あははっ!!じゃあ、ゾンビってネバネバしてるのかな?」


「話の方向性がグロテスクになってきてるよっ!!」


 そんなツッコミとボケの応酬の背景にゲームに収録されたナレーターは低くも艶のある声で設定の解説を始めていた。

 どうやら宇宙編とは極秘に選抜された主人公が生物の反応が確認されたコロニーへと調査に赴くが、その道中で大変な目に遭うという設定らしい。

 わずか数名で宇宙への危険な旅に行かせた主人公の属する組織上層部の采配は謎であったが、突っ込む暇を与えない画面の切り替えで誤魔化された。


「設定はわりとテキトーだけど、映像は超綺麗なんだよ」


「確かに宇宙空間のグラフィックとかは凄く綺麗ね」


「宇宙空間って、ぷかーって浮いて目を瞑ったら気持ちよさそうだよね」


「カンナ、塵と化すわよ・・・・・・」


 そうして、主人公は過酷な宇宙での戦いに足を踏み入れていく。

 もはやナレーションも話半分で聞いている辺り、三人がこの短時間にいかに打ち解けたかの証明でもあった。

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