第109話:意気投合?


「私、ここ近いけど意外と来ないんだよね。食べ物の買い物は楓人と怜司・・・・・・さんに任せてちゃって申し訳ないんだけどね」


 カンナは普段通りに怜司を呼び捨てにしようとしたが、一応は親戚という設定を思い出して慌てて敬称を付け加えた。


「私も意外と来ないわね、ウチからだと歩くのも面倒だから。たまに手伝うくらいで料理はお母さんに任せっきりだしそんなものじゃないかしら」


 対する椿希も隣を歩く少女を一瞥すると穏やかな口調で返す。

 彼女もなぜカンナが誘ってきたのかの推測は出来るものの、答えをはっきりと出せているわけでもなかった。

 雲雀カンナのことは椿希は嫌いではないどころか非常に好意的な感情すら抱いており、明るい性格に他人を自然に気遣える心根の良さから来る悪意のなさには温かさを覚えていた。


 もう少し明確に嫌な人間であれば楓人に関しては遠慮などしなかったのに、と妙なことを考えてしまう自分に自己嫌悪しながらも椿希は歩みを進めた。


 今までだって部活で話は出来ていたので気まずいことは全くない。


「ごめんね、私どこ行くかとかさっぱりで・・・・・・。どこか行きたい所ある?」


「大丈夫よ、友達同士で遊びに行くならそういうのもアリじゃない?」


 気まずそうに頬を掻くカンナに椿希は優しい笑みを向けると周囲を見渡した。


「そうね、それじゃ・・・・・・あそこに行ってみない?」


 椿希が指差した先には女子二人では本来ならあまり行かないであろうゲームセンターが見えた。

 彼女は柳太郎や楓人と仲が良かった影響で男子が好む遊びにもそれなりに理解はあったし、ゲームも進んで行う趣味ではないが嫌いではなかった。

 カンナの性格なら粛々とショッピングをするよりも性に合っているだろうと考えたのだが、カンナの表情を見て正解だったことを椿希は悟った。


「あそこにしよっか。椿希はゲームセンターって結構来てるの?」


「それなりに来るわよ、悪い友達のせいでね。カンナは?」


 何となくお互いが好きなものは同じだと察しているが都研で外部活動をした時以来から距離自体は近付いていた。

 以前はたまにしか部活に出ないカンナと直接の親交はそこまで深くもなかったが、いつしか椿希の方も名前で呼ぶようになっていた。


「たぶん、その同じ悪い友達のせいで度々来るよ」


「お互いに良い友達を持ったわね」


 二人でくすっと笑い合うと二人で出来そうなゲームを施設内から物色していく。

 この時間ではまだ親子連れや大学生らしき客層が多く、同じ女子高生はほぼ五なさそうだった。

 そもそもゲームセンターのゲームコーナーに足を踏み入れる花の女子高生の方が希少種なのかもしれないが。


「これ、楓人とよくやったなぁ・・・・・・」


「バージョンは新しくなっているけど、操作は変わらないみたいだしやってみる?」


 そう会話をしながらも所謂、ガンゲーと略される銃でゾンビを打ち倒すタイプのゲームを選択して二人は荷物カゴに鞄を下ろして戦闘準備を整える。

 だが、その前に躊躇ったのは同じゲームが少し間隔を離してもう一台設置してあるのだが、そこにはある意味レアな光景が広がっていたからだ。


「おらあああああッ!!潰れろォォォ!!」


 やや小柄気味で可愛らしい雰囲気を持つ他校の制服を纏う少女だが、引き金が引かれる度にゾンビの頭部が破壊されて吹き飛んでいく。

 凄まじいテンションで周りからも人を退散させているので、快適なゲーム環境が約束されていた。


 背中まで届く程度の薄亜麻色に近い髪には、雰囲気で言えばティアラを思わせる小さく藍色のガラス玉の嵌った髪留めが光っている。


 少女はその健康的な太ももを特に意識せずに晒しながら、ゾンビを撃退することに命を燃やしていた。

 プレイはと言うと手榴弾の使用タイミングに射撃制度、リロードの計算まで含めて完璧としか言いようがないやり込みを感じさせる。


「大分、命賭けてるわね・・・・・・」


「白熱してるけど隣でやっちゃう?」


「・・・・・・少しやりにくいけど私達が遠慮する必要もなさそうね」


 肝が据わっている系女子の二人はこの状況で百円を筐体にぶち込んでいく。

 そして、操作説明を念の為に確認していた所で隣の少女はプレイを終えて額の汗を満足げに拭う。

 しかし、気まずそうな二人と目線が合うなり自分の醜態を記憶の奥底から引き起こしたらしかった。


「あ・・・・・・ど、どーも。お騒がせしました、よね?」


 人懐っこい笑みをベースにわずかな気まずさと照れを滲ませて銃乱射系少女は挨拶をしてくる。

 このまま沈黙のままで去る空気に耐えられなかったのだろう。


「すっごく上手でしたね。ちょっと声は抑えた方がいいかなーって。あ、私達は全然迷惑とかじゃなかったんですけど。入り込んじゃうことありますよねっ!!」


 もう声に関してはフォローしても無駄だと判断したカンナの無垢な笑顔が炸裂して、少女は女神を見るような安堵を表情に含ませた。


「ご、ごめんなさい。私ってばちょっとハイになっちゃってて」


 先程のテンションにはやや戸惑ったが椿希もカンナも目の前の少女が悪い人間でないのはその後の態度から察したつもりだ。

 ゲームに少し思い入れが強そうだし、今は反省して謝罪までしているので二人ともこれ以上は言及するのは可哀想だと思って話題を変えることにした。

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