第101話:見舞いと疑問
別に見返りなんて期待したことはないし、そういう気持ちで友人として接してきたわけでは断じてない。
だが、大災害で楓人が学校に行けなくなった時も椿希は足繁く通ってくれて何とか元気づけようとしてくれていた。
「楓人は私の友達だから。今度は私が傍にいる番よ」
そう言って楓人の為に色々な話をしてくれて、自分だって家が無傷ではなかったから大変なこともあっただろうに優しく見守ってくれた。
色々な人と死別して肝心の父親もあの様子で、誰を頼ればいいのかもわからなくなっていた楓人はそんな彼女の温かさに触れて涙が出る程に嬉しかった。
カンナともまだ全幅の信頼を置ける程には関係を築けていなかったし、長年の友人がここまで楓人を思ってくれることに心から感謝したのだ。
何度お礼を言ったかわからないし、人間はこんなにも救われると嬉しいのだと改めて知った。
柳太郎も一度は蒼葉市を離れたのに手紙を頻繁にくれたり、時々は顔を見せてくれて友達だと言ってくれた。
この人の優しさに触れて感じた熱を失いたくないと思った。
誰かに同じ熱を失わせたくないと思った。
そんな恩義もあって大切な友人である椿希が体調を崩せば当然ながら心配もするし、様子も気になるのが人情というものである。
―――よって、柳太郎とカンナと一緒に放課後に見舞いに来た。
椿希の家に上がるのはもう半年ぶりぐらいになるだろうか。
以前は楓人の両親とも親交があった椿希の母親に招かれて一緒に食事をする為に上がらせてもらったきりだった。
大災害の時も椿希に言って食事を届けて貰ったりと本当に椿希にも母親の
玄関でチャイムを押すとどこか椿希に似た黒髪美人の母親である
「あら、楓人くんと柳太郎くん。お見舞いに来てくれたの?ごめんなさい、そちらは・・・・・・?」
「椿希さんのクラスメートの雲雀カンナって言います。体調が悪くないならでいいんですけど、少しだけお話できませんか?」
「カンナちゃんね、話は聞いてるわ。大分、元気にはなったみたいだから上がってくれていいのよ」
三人でお礼を言って、椿希の部屋がある二階まで連れられて上がって行く。
夏澄家は外観は白を基調とした洋風の一軒家で、内部も色の明るいフローリングやクリーム色がかった壁紙で明るい雰囲気が演出されている。
階段を上がる途中に秋帆は楓人へと振り向いて声を掛けた。
「ね、楓人くん。それでウチの椿希とはどうなの?」
「どうって・・・・・・いい友達ですってば」
夏澄家は両親共に椿希の恋愛事情に興味津々で、楓人が椿希と付き合うのであれば認めようと公言する困った状況だった。
別に強要されるわけでもないが、家に上がる度に確認を取られるのはもはや日常茶飯事だった。
「少しは進展があったら私も嬉しいんだけどね」
「・・・・・・椿希に聞かれたらまた怒られますよ」
そんな会話をしながらノックをした後に秋帆は娘の部屋のドアを開け放つ。
薄緑色の葉の模様が入ったカーテンが真っ白の壁の中で映え、全体的に色彩は抑えめながらワンポイントで使われる緑色が落ち着きを与える。
椿希の部屋の雰囲気はもう何年もイメージ自体は変わりないままだった。
奥のベッドには椿希が寝ていたが意識はあるらしく入ってきた三人を見て驚いた顔をする。
「三人とも・・・・・・来てくれたのね。ありがとう」
顔は赤いものの体調自体は確かに大分よくなったようで今日の朝のように変に不愛想な様子は全く見えなかった。
それはカンナと柳太郎も感じたようで安堵の視線を椿希に向けていた。
秋帆はそれを見届けて邪魔になると気を遣ったのか、楓人達が部屋に入る前に差し入れた果物の袋を持ってひっそりと一階へと戻って行った。
「心配しちまったじゃねーか。お前の様子が変だからよ」
「ごめんなさい。朝の段階で調子が悪かったから家は出たんだけど、結局は家で休むことにしたのよ」
柳太郎の言葉に自覚がなかったのか、少し怪訝そうな顔をしながらも椿希はばつの悪そうな顔でそう言った。
体調が悪い時はぼーっとする時もあるし、自分のことが客観的に見えなくても不思議ではない。
「でも、思ったより元気そうで良かった。早く元気になってね」
「ありがとう。大人しく休んでることにするから」
カンナと椿希も朗らかな笑みを交換し、すっかりいつも通りの優しい椿希へと戻ったと確信した。
これで陽奈を始めとする女子達や燐花達にも大丈夫そうだと報告できる。
「先生にも一度、休みの連絡は入れていたんだけど結果的に楓人達にも心配はかけたわね」
「もういいよ、別に椿希は悪いことはしてない。単に心配だったってだけだ。それと果物を秋帆さんに渡しておいたから後で食欲あったら食べてくれよ」
「・・・・・・ええ、そうする。わざわざ果物まで買ってきてくれたのね」
黒の騎士の一件で精神的にも来ている可能性を考慮していたが、椿希からは悩んでいる様子は見受けられなかった。
学校で変だった理由は単純に体調が悪かっただけなのか、と楓人の中で何かが引っ掛かっていた。
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