第100話:彼女との出会いとか -Ⅱ
そう劇的な出会いでもなく、何かドラマチックな出来事があったわけでもない。
椿希と出会ったのは、家の近くにあった小さな公園だった。
そこで学校が終わった時間になるとブランコを漕いでいる少し大人びた雰囲気を持った少女のことを、楓人は同じ学校の生徒であるという程度には知っていた。
その少女が普通の様子であれば、もしかしたら楓人は声を掛けなかった可能性もあって二人の友情は結ばれることもなかっただろう。
ただ、何となく彼女が落ち込んでいるようにもつまらなさそうにも見えていた。
当時の楓人少年は今もそんな所はあるが余計にお節介で恐れを知らなかった。
そんな彼女を放っておけないと子供心に思ったのだ。
「なあ、そこいいか?」
隣に空いたブランコを指さしながら、女性をバーで誘うような文句と唐突さで楓人は彼女のパーソナルスペースをあっさりと踏み越えた。
「・・・・・・学校、同じよね。見た事あるし」
「ああ、うちと家近いだろ?たまには話そう」
「・・・・・・別にいいけど」
楓人は何となくブランコを漕ぎながら色々なことを話した。
彼女の話を聞く気がなかったわけではないが、最初は自分が話をしてきっかけを作ろうと気遣ったつもりだったのだ。
友達と喧嘩してしまったこと、好きな物や食べ物や色、様々なことを話しながら彼女が話に乗ってくれるかを内心ではおっかなびっくりで話していた。
そして、話が好きな教科まで至ったころに椿希は応じてくれた。
「・・・・・・そうね、国語は好きな方。理科は嫌い」
「俺も算数と理科と社会と家庭科は嫌いだ。国語はまあまあ、体育は好きだな」
「ふふっ、嫌いなもの・・・・・・多過ぎ」
くすくすと笑う椿希を見て、楓人は彼女も少しばかり冷たく見えて雰囲気が大人びていても同じ年頃の女の子だと思ったのを覚えている。
それからは友達と遊ぶ日以外はほぼ毎日彼女と会っていた。
彼女が自身の悩みを打ち明けたのは一月ばかり公園に通った時だっただろうか。
椿希は自分が素っ気なく見えるせいで友達が出来ないと悩んでいるらしく、嫌われもしなければ好かれもしない立ち位置であることを良しとしていなかったのだ。
だが、無理をして嫌われるのはもっと怖いと誰にも相談できなかった。
「んー、なんつーか・・・・・・仲良くしたいーって感じで行けばなんとかなる」
当時は語彙力が壊滅的だったのもあって、楓人は思い出すと頭を抱えたくなる手法を提案してのけた。
「・・・・・・私には難しいわ」
「今みたいにすりゃいいんじゃねーの?お前、今フツーだぞ」
ぺたぺたと自分の顔に触れて怪訝な顔をした椿希の顔は今でも思い出される。
それから二人で頻繁に公園で遊ぶようになって半年以上が経過していた。
だが、他の生徒も通過する通学路である以上は公園で遊んでいる男女の姿を誰にも見られなかったわけではない。
――—ある日、椿希の同級生達が通りがかりに彼女をからかった。
「オマエ、ずーっとここで男子と遊んでるじゃん!!」
「ソイツのこと好きなんだろ!!」
「だから友達いないんだろ」
そんな今となっては幼稚極まる言い方でも当時の精神的にも成熟していない椿希には
誰かに好意を持っているだとか異性と遊ぶことをからかわれるのが無性に恥ずかしい年頃では多少大人びていようが関係はなかった。
何より彼女にとって友人がいないことを指摘されるのは耐えがたい苦痛だったのだろうと当時の楓人ですら察していた。
黙って唇を噛み締める椿希の前に恐れも知らずに楓人は立った。
そして、声高に叫んで同じ小学生三人を睨み据えたのだ。
「うるせーなッ!!用がないなら帰れよ!!」
「な、なんだよ・・・・・・お前」
瞳に怒りを漲らせた楓人に対して小学生三人はたじろいだ。
楓人の学年が一つ上であることも名札を見て認識したようで、近所のおばさんが通りかかったのも原因の一つだっただろう。
「俺はこいつと遊んでて楽しいんだから帰れよ!!俺はお前らよりこいつの方が百万倍好きだよ!!バーカ!!」
なぜ煽ると今だったら思ったし、平和的な解決方法を模索することも可能だったかもしれないが当時の小学生同士で話し合いなど不可能に近かった。
何より椿希を馬鹿にされて頭に血が上っていたのもあったはずだ。
楓人にとっては既に椿希は友人の一人でもあり、他人と仲良くしたいという気持ちを応援してやろうと懸命にアドバイスしていた所だったのだ。
そんな彼女の気持ちと努力を踏みにじった相手に怒りをぶつけたのも年齢を考えれば止むを得ないことだった。
「バ、バカって言ったな!!」
「バカはバカだろ。早く帰れよ、ジャマなんだよ!!」
全員がそうとは言えないが小学生くらいの年頃の子供は大人の視線に弱く、堂々と言い返してくる相手には怯える節がある。
特に人をからかってくるタイプには実は気が小さいから攻撃するとか色々な特性があったりもする。
そこまで考えていたわけではないが、とにかく彼女を守りたかった。
小学生達が捨て台詞を吐いて退散した後、椿希は呆然と立っていたその場に立っていた。
「あんなの気にすんな。文句があれば言ってやれ。とりあえず俺はお前のトモダチだから、いつでも遊んでやるよ」
今になってみれば、『他に友達がいなくなっても楓人だけは友達のままで変わらないから思い切って言いたいこと言って来い』と告げたかったのだろうが昔は語彙力の不足故に伝えきれなかった。
だが、伝わった証拠に椿希は花が咲くように満面の笑顔で頷いたのだ。
そこからクラスメートとの関係を明確に変化し始めて、今の言うべきことは言うが優しく聡明な椿希の性格は構築され始めたと言ってもいい。
だが、賢い椿希は楓人がお節介を焼かなくても今の慕われる人間にはいずれなっていただろうから恩義を感じる必要もない。
ただ、ここから二人の友情が始まったのは間違いないことだった。
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