第99話:彼女との出会いとか


「アタシらも体調には気を付けなきゃねー」


「あ、そうだ。すず・・・・・・陽奈でいいんだよな?あれからスカイタワーの件で続報はなかったか?」


 折角、情報通の陽奈と話をしているのでもののついでにダメ元で聞いておく。

 恐らくこういった類の相手の場合は変異者でない者が発信する情報や噂も決して馬鹿に出来ないだろう。

 烏間が行方をくらまして以来、楓人達はインターネットから情報を発掘する時間を増やしてSNSや普通の掲示板にも手を広げていた。

 今の情報社会ではわずかな異変が噂になるなんて、よくあることなのだ。


「うーん、何もないかなぁ。スカイタワーから何体か人形がなくなってたとか、信用できるかビミョーなのばっかり。ごめんね、何もなくてさ」


「謝ることじゃないだろ。陽奈は今までも協力してくれてるんだ、感謝してるよ」


「よせやい、照れるってば。今後も何かあったらすぐに知らせてあげるよ。ほい、これアタシの連絡先」


 さりげなく陽奈の連絡先をゲットしつつ、楓人は考え込んでいた。

 人形がなくなっているという小さな噂でも馬鹿には出来ない。

 あの破壊した人形が失われた分だと考えても辻褄が合わないこともないが、もし人形が紛失したのが持ち出されたからだとしたらどうか。


 これから使用する分の人形を予め、変異者が持ち出したとすれば事件はまだ起きる可能性が高く、椿希のように襲われる人間も出るということだ。


 ドッペルゲンガーの方も手掛かりはなく、二人の変異者が結託しているとすれば烏間が動き出したのかもしれない。


「真島、仁崎。ちょっと来て」


 そんなことを思った時、不意に教室の隅に固まっていた女子集団から声がかかる。


 今は席を外しているカンナとも普段は仲良くしている女子達で、大変よくしてくれている様子なので内心で感謝している女子達である。

 カンナと仲良くしている時点で悪い人間でないのは明白だし、特に変な話でもないだろう。


「ね、椿希いないけど帰ったの?」


「ああ、やっぱり無理そうだって帰ったよ」


 女子三名の中でも一際元気のいい短髪の女子が口を開いて楓人が応じる。

 人望のある椿希はこの女子グループ内でも心配されていたようで、柳太郎もセットであることから予測した通りの話題だった。


「・・・・・・そっか、辛そうだったもんね。全員で行っても何だし様子見てきてよ。お見舞い行くみたいな話してたでしょ?」


「おう、オレと楓人と雲雀さんで行ってくるからよ。何か差し入れてくるわ」


「何か必要なものあったら、私ら今日は街ぶらぶらしてるから言ってくれれば届けてもいいからさ」


 リーダー格の女子はそう言い出し、やはり性根はいい子なのだと確信した。

 人間は色々いるが、カンナと椿希の知り合いは本人たちの人柄もあって基本的に良い人間が多かった。


 椿希への話題が一段落した頃に他の女子二人も口を開く。


 一人は大人しそうな雰囲気とセミロングの髪をしており、もう一人も肩までぎりぎり届かない髪に人懐っこそうな笑みを浮かべている。


「そういえば、さっきも話題になったんだけど・・・・・・二人ってその、椿希と仲良いよね?」


「付き合い長いってカンナが言ってたけどさー、どんくらい?」


「オレが小学校高学年、楓人が低学年だから付き合いの長さじゃ楓人だな」


 順番に一人ずつ口を開いた女子二人に対して柳太郎が纏めて返答する。

 柳太郎はどちらかと言えば楓人繋がりで椿希と仲良くなったので、三人の友情が始まったきっかけは楓人と椿希の出会いと言っても過言ではない。


「へー、ちなみにどんな出会いだったの?」


「オレは楓人と仲良かったから・・・・・・って話だけど、椿希と楓人の出会いは本人に聞いてくれ。オレも詳しくない」


 簡単には話はした覚えはあるが、それを勝手に話すべきじゃないと判断した柳太郎は話を楓人に投げて来る。

 隠すことでもない気はするが、勝手に話をしてしまうのは椿希も怒りはしないだろうが喜ばないであろうことは何となくわかる。


 それにこの話は楓人が大災害で受けた爪痕にも関わってくる話なのだ。


 そのことを理解していたからこそ、柳太郎は話をこちらに投げて何かあれば横からサポートする状態に仕向けたのだ。

 失礼ながら普段は頭の悪そうな発言もしているものの、こういう時はさりげなく頭の回る友人だ。


「・・・・・・まあ、引っ越す前は家が近所だったからな。その流れで俺から話しかけて仲良くなった。あいつと遊ぶのも習慣になってたから違和感はなかったよ」


「あー、成程ね。それでもここまで続くって結構珍しいね」


 大災害のことを気にしているのは変異者だけではなく、家の住所が変わったような言い方をしたからか短髪女子はそれを敏感に察したようだった。

 別に大災害の話題はタブーではないが、こうして変異者以外でも色々な傷を負った人間が蒼葉市には住んでいる。


 本人が自分から大災害の話をしない限りは、真っ当な人間ならば土足で踏み込めるものでもない。


 それはさておき大災害の遥か以前、楓人は椿希と出会った。


 本来ならば楓人は年齢が一つ上で椿希のことは学校で見かけはしても直接に接したことはなかった。

 ならば、本来なら学年の違う二人を出会わせたのが家の近さであったのは嘘ではないし否定もしない。


 ―――あの頃の楓人は今よりも無謀で空気が読めない少年だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る