第73話:肉親

『……なるほどね。怜司さん、フウくんのこと尊敬してるみたいだったし。言う時はズバズバ言うけど』


「それでいいんだよ。俺のことを全員が持ち上げるなんて逆に嫌すぎる。俺はたまにボコボコにされて伸びるリーダーでいいんだよ」


『ふふっ、フウくんらしいね。とにかく、ありがとう。怜司さんのことをまた少しわかった気がするよ』


 明璃なら受け入れてくれると確信を持って話したものの、本当にそれでよかったかと少しだけ不安になった。

 余計なことを話したかと迷った沈黙を察して、明璃の方から口を開く。


『大丈夫。むしろ、もっと力になりたいと思っちゃった』


「そうか、それなら頼む。あいつを支えてやってくれ」


『うん、出来る限りのことはするって約束する』


 そうして、しばらく他愛のない話をして明璃との話は終わった。

 明日はそれぞれが別の場所に行くので助力は全く期待できないし、最初からするつもりもない。


 それぞれのデートの行方は四人の機転次第だと言えよう。



 ―――翌日。


 楓人は朝早めに店を出ると目的地に向かった。

 待ち合わせは蒼葉北駅付近ということになっていて、相手は何を隠そう切っても切れない縁の知り合いだった。

 本音を言えばあまり会いたい相手ではないが、いつまでもこのままの関係でいるのも難しそうだった。


 待つこと十分程でロータリーにシルバーの乗用車が止まって男が下りて来る。


「・・・・・・久しぶりだな、楓人」


「ああ、墓参りの時以来だな」


 武骨な様子が見て取れるが、ややくたびれた色を表情に浮かべた眼前の男の名は真島遼一まじま りょういち

 何を隠そう楓人の実の父親であり、管理局に勤務している肉親である。

 前回に偶然にも墓参りに出くわして以来、たまに連絡は寄越すものの半年以上も会っていない。


 父親との溝を埋められていない以上は、あまり長話をすると言い過ぎてしまいそうで嫌だったのだ。


 いかに思う所があると言えど、楓人には過去に育てられた恩はあるので単純に縁を切るのも難しい。

 管理局にこんなに早く入り込めたのも父親の存在が全く関係がないとは言えない負い目もあった。


「とにかく乗れ、話は既に通してある」


 車に乗り込んで、これから向かう先で相手と話すべきことをもう一度だけ整理し直していた。

 今回は三人で学校の見回りをした時に交戦した末に捕らえた、梶浦という男への面会を依頼しておいたわけだ。

 渡からも話は聞いたが、裏賭博場で声を掛けて来た梶浦を素性調査の末に一時的に金で雇って使っていたらしい。

 元から傭兵でしかなく、渡は余計な情報は一切渡さない関係だったので管理局に捕まってもレギオン・レイドは救おうとしなかった。


 今更になって梶浦への面会を申し出た理由は二つだ。


 あの男のいた学校には白銀の騎士の能力である糸状の武器が張られており、、白銀の騎士と密接な関わりがあるかもしれないのだ。


 そして、もう一つはスカーレット・フォースに関してだ。


 傭兵に近いことを生業にしているなら、謎のコミュニティーに関しても知っている可能性は十分にあった。

 楓人も渡も今までに全く聞いたことがないのなら、スカーレット・フォースは比較的新しいチームだと言えよう。

 それならば使い倒すリスクのない駒を雇う可能性が高くなるからだ。


 車に乗ったまま、窓の外を過ぎていく景色に目を向ける。


「楓人、友達とは上手くやっているのか?」


 不意に遼一が口を開き、父親らしいことを急に訊ねる。


「ああ、皆よくしてくれてる。俺には勿体ないくらいの友達だよ」


「・・・・・・そうか、お前が変異者として生きると言い出した時は私は反対したが、悪いことばかりじゃないようだ」


 家にすら帰ってこない父親よりはよっぽど良くしてくれている、と皮肉を言いかけたが辛うじて呑み込んだ。

 過去に世話になったこともある肉親に向けて、言うセリフとしては適切ではないと咄嗟に理性が働いたのだ。

 いかに母親に最低なことをしたとしても、言っていい事の区別は楓人にもつく。


 だが、それでも父親をすぐに許せるかといえば返答はノーだ。


 ―――この父は大災害で亡くなった母の葬式にすら姿を現さなかったのだ。


 そして、時折に顔を見せはしたものの怪我をした楓人よりも仕事を優先した。

 治療費を稼ぐとか、色々な名目があったにしても以前の楓人は息子すら顧みない父親を恨みさえしたものだ。

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