第52話:次なる戦いへ
結局、次にまた夏休みに来る約束までさせられてしまった。
「いやー、何か思いのほかオレも思いっきり遊んでたわ」
帰りの電車の中で柳太郎が苦笑しながら感想を述べる。
かくれんぼから缶蹴りまで、色々なアレンジを加えて工夫したお陰で楽しい時間を過ごすことが出来た。
ちなみに変な所に隠れて行方不明にでもなられては困るので、こっそりと相談して順番に子供達は見張っていた。
あんなことしか出来なかったし、少しでも楽しんでくれたならいいのだが。
「うむ、童心に返るのも悪くはないな」
「楓人が遊ぼうって言い出したことはどうしたかと思ったわよ」
半眼で言い出しっぺの楓人を一瞥した燐花だが、その視線と声色からは責める色は微塵も感じなかった。
納得いかなければ反対するのが燐花なので、大人しく遊んでいたのはそれでいいと思っていたからだろう。
「何となく放っておけなくてさ。たまにはぱーっと遊べばすっきりすることもあるかなって思ったんだよ」
「ほんっと、発想がガキよね。まあ・・・・・・でも、良かったと思うわよ。あの子達も楽しそうだったから」
「・・・・・・ああ、楽しいのが一番だよ」
「楓人がたっぷり楽しませたおかげで、また行かなきゃいけなくなったけどな」
茶化すように柳太郎が口を挟んで、小さな笑いがメンバー全体に起こる。
余計なお世話だろうが、楓人は最後にあの兄妹と約束をした。
夏休みにまた来る代わりに、その時までにクラスの人間に声を掛けてみること。
その勇気さえ出せればきっと上手く行くだろうと言葉を尽くした。
あの兄妹は慣れれば人懐っこいし、話を聞く限りは虐められている様子もないので必要なのはきっと勇気だけだ。
「おい、カンナ。そろそろ起きろ、蒼葉北に着くぞ」
眠りこけているカンナを優しく揺り起こす。
普段から疲れることをさせているし、好きに眠らせてやろうと思っていたが直前で起こすと置き去りになるかもしれない。
「ほんっと・・・・・・楓人の傍にいる時って幸せそうな顔するわよね」
小声で燐花がそう告げ、隣にいた光も聞き咎めて唇を緩める。
「うむ、愛されているようで何よりだ」
楓人にぴっとり寄り添って眠りこけていたカンナは目を擦りながら目を覚ます。
楓人の肩に頭を乗せて眠っていたことに気が付いて微かに頬を染めた後、少し嬉しそうな笑みを浮かべて体を離す。
何とも思考が分かりやすいことで、“恥ずかしい上に重かったら申し訳ないが、何だかんだラッキー”と言いたげだった。
「それじゃ、今日はお疲れ様。俺の我が儘に付き合わせて遅くなったのは悪かった。付き合ってくれてありがとな」
無事に都研のメンバーは蒼葉北駅へと帰還した。
謝罪をしたものの、謝罪を求められていないと思い直して感謝の言葉を贈った。
本当に急な予定変更でも付き合ってくれるメンバーには普段から感謝しかない。
やはり、都市伝説研究部は楓人にとっても大切な居場所だ。
そして、部活は解散となって楓人とカンナはカフェまで戻ってきた。
「お帰りなさい。リーダー、カンナ。楽しかったですか?」
客用の席の一つには怜司が座っており、夜のニュースを眺めているようだった。
どうやら、こちらものらりくらりと営業していたようだ。
「ああ、今度はお前にも休みを取らせる。ゆっくり休んで来ていいぞ」
「私は別に構いませんよ。普段からさほど激務ではありませんし」
「そんなことないだろ。お前・・・・・・明璃とのデートでも食材買い込んで帰ってくるしな。今度はゆっくりどっか行ってこい」
以前の明璃が漕ぎ着けたデートであろうことか、怜司はカフェの食材の買い出しを行ったのだ。
一応はお茶もしたらしいが、それを聞いた楓人は珍しく軽く怜司に説教をした。
明璃と怜司の捉え方が違った故に起きてしまった悲劇だった。
少なくとも、二人で遊びに行くのにカフェの買い物をさせる奴がどこにいる、と楓人はしっかりと言うべきことは言った。
楓人に言いたいことがあれば遠慮なく言えとコミュニティーのメンバーには言ってあるし、逆もまた然りだ。
立場の違いはあれど、階級や役職はコミュニティー内には存在しないのだ。
リーダーであろうと間違いは間違いと認める組織でなければならない。
「わかりました。その件については私の認識が甘かったと反省しております」
「ああ、もうとやかく言う気はないさ。お前だって遊んでいいんだからな」
「はい、ありがとうございます」
丁寧に礼をする怜司を尻目に楓人は手元の携帯に目を向ける。
着信を告げるバイブレーションを携帯から感じ、ディスプレイに目を向けると“渡 竜一”という名前が表示されていた。
―――新しい戦いが始まるか。
渡が連絡をしてきたということは殺人ギルド、マッド・ハッカーに関する状況に大きな進展があったということだった。
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