第45話:事前調査

 都会であるようなファーストフード等と違って、のんびりと昼食を取れるのは良いものだ。

 思い思いの種類の魚が乗った海鮮丼系統の食事を各自で注文し、程なく運ばれてきた丼を美味しくいただく。

 魚、特に刺身は海側の街では特に素材の良さが露骨に出る。


「わ、美味しい・・・・・・!!」


 カンナは回る寿司くらいにしか連れていってやったことがないので幸せそうだ。

 このレベルの料理を都心で食べようと思うと倍はするはずだ。


「そうね、凄く新鮮だわ」


「最近、回る寿司しか行ってなかったせいか余計にうめーな」


 椿希と柳太郎を初め、それぞれがお互いの品を吟味して感想を漏らす。

 カンナは特に幸せそうに味わっており、回らない寿司にもたまに連れていってやろうと決意する。


 思えば、最初はカンナの扱いに戸惑っていたものだ。


 食事をする具現器アバターなど有り得るのか、と完全に割り切るまでに時間がかかったのだ。

 彼女に関しては謎も多いが、判明済みなのは今の姿のカンナが紛れもなく生命活動を行っている事実である。


 漆黒の風が変化した姿なのかとも考えたが、そこまでの具現化は難しいはずだ。


 楓人の具現器アバターであることは間違いないのだが、彼女が人間としての姿を持つ理由は完全にはわからない。

 それでも大切な相棒であることに変わりはないが。


「そっちの兄ちゃん達はどっから来たんだ?」


 考え事をしながら料理を味わっていると、同じく食事をしていた二人組の年配の男の内一人が声を掛けてくる。

 二人組の一人は白髪交じりの気の良さそうな男でさっき口を開いた方だ。

 もう一人は幾らか若そうに見える精悍な顔付きをした男だった。


「蒼葉北の方から少しお参りにきました」


 爽やかで人当たりの良い笑みを浮かべた光が、まともな人のように返答する。

 光は確かに変態だが、見ず知らずの人間に引かれないように常識人に擬態するスキルは持っていた。


「なんだ、わざわざこっちまでお参りか。兄ちゃん達くらいの年はここじゃ珍しくてね。大体、大きくなると都会に出て行っちまう」


 この街の人口はそれなりに多そうだが、平均年齢はかなり高そうだ。


「ま、無理もないだろ。ここは大したもんはねえし、都会の方が何かと便利だ。両親共働きって子供も多いからねぇ」


 もう一人の男も口を開き、楓人が頼んだ海鮮丼と同じものに舌鼓を打つ。

 男二人とも海鮮丼であることから察するに人気のある一品のようだった。


「そういえば・・・・・・これから神社に行くつもりなんですけど、一番近いのってバスですか?」


「ああ、バスでも行けるが一番近いのはトンネルを通る道かね。トンネル使えば歩いていける。その度胸があればの話だがね」


 気の良さそうな男がにやりと笑って意味ありげにそんなことを伝えて来る。

 やはり、地元でも噂にはなっているようで、ここで少し情報収集をしてから行ってもいいかもしれない。

 都市伝説の類はネットで広まっている情報と現地での話が食い違っているというのはよくある話だ。


 その食い違いこそが真実に至る鍵であるケースもあるので、得られる情報はしっかりと整理しておく。


「トンネルで幽霊が出るっつー話があってよ。昔のここは城下町だったんだが、飢えた村人が子供に山菜取りに行かせたって話でな。子供の霊がまださまよってるとかいう噂だ。出会ったら食料の一つもくれてやりたい所だがな」


 豪快に笑う精悍な顔付の男は幽霊に関してはあまり気にしていないようだったし、もう一人も話のネタにする程度にしか考えていない様子だ。


「神社に祀られているのも子供達なんですよね?」


 椿希が口を開いて二人の男に訊ねる。

 神社で祀られている一種の守護神に近い存在が近くのトンネルで霊として出て来るなんて何となく妙な感じだった。

 椿希もそれを感じ取ったので根本から確認する必要があると踏んだのだろう。


「ああ、そうだよ。皆の為に食料を探しに最後まで山から戻らなかった子供の心を忘れないようにってな。鎮魂の意味もあるらしいけどよ」


「これから、そういう子供を出さねえようにって教訓もあるらしい。ガキは小さい頃は飯ガンガン食って、とにかく遊んどきゃいいからな」


 男がそれぞれ、神社についての情報を口にする。

 基本的な情報はネットで見た通りのようで、後は実際に起きている幽霊騒ぎについても話を聞きたかった。


「それで、幽霊っていうのは何なんですか?何か被害が出てるんですか?」


 楓人は単刀直入に幽霊に関する内容を訊ねることにする。

 海鮮丼に着いて来る味噌汁の美味さに感動しつつも二人の反応を伺った。


 都市伝説の調査において、地元の人間から得る情報は特に重要な意味を持つ。

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