第44話:都市伝説研究部 外部活動
普段の身体能力が高すぎて重く感じる程度なので、そこまで心配もいらない。
恐らくは蒼葉市に変異者が集中しているのも関係があるのだろう。
エンプレス・ロアが蒼葉市で活動しているのは、そもそも分布が蒼葉市に偏っているからだ。
故に人員も今のままでもそれなりに何とかなっているのだ。
怜司とも話をしたことはあるが、特殊な磁場でも出ているのではないかとしか言えなかった。
「さて、それじゃ現地に着くまでに詳しく話しておこう」
まだ到着までに時間は十分にあったので、今回の外部活動に向かう発端となった都市伝説を楓人から確認しておく。
詳しい話は光から聞き、こういう情報発信する役割はお前に任せると光から言われていたからだ。
ちなみにこれはロア・ガーデンに集まった情報ではない。
行き先は蒼葉市の端にある
そもそも、風観町は学校の文献にも刻まれている知る人ぞ知る名所だ。
残念ながら観光地としては残っている歴史的建造物も多くないので、たまに観光客が寄る程度の集客力だ。
何にせよ、歴史がある土地なのは間違いない。
行き先にも見えている山には風観トンネルがあり、数百年前にあった砦の門を改造したものと言われている。
砦は領主が立てたもので、陥落した時には城にいた兵士は全員が領主と共に討死を選んだと伝説が残っていた。
その霊が今でも徘徊しているという噂が昔から多く、観光客の中には心霊スポット巡り目的の者もいるようだ。
「じゃあ、今回は武士達が出るかを検証に行くの?」
「出ないとは言わないが、今回の本筋はそうじゃない」
「それなら、何が出るってのよ」
「それはこれから話すよ」
カンナと燐花の疑問に応えて、話を続ける。
砦がなくなった山には何もなくなり、山菜取りの村人しか寄り付かない。
しかし、すぐに誰も山には入らなくなった。
兵士の生き残りが山にはおり、入る者を斬り殺すと噂が流れたからだ。
だが、すぐに山はある用途で再び利用されることとなった。
元はといえば城下町は広大な畑で取れた作物を食べたり、売買することで生計を立てていた。
食料が豊富だったことで、皮肉にも先の城で戦い続けた兵士も最期まで抵抗する糧食を得ていた。
だが、進行する大大名に歴史に刻まれる程に抵抗したことが仇となった。
城下町の人間は冷遇され、重税を課されて飢えた。
裕福な暮らしをしていた商人達はすぐに引っ越したが、日々の暮らしがやっとだった農民や職人達は町を出ることもできなかった。
土地が得られる公算がないのに移住は出来ない。
「必死で山の土地を町人は開墾したけど、もちろん違法だ。その傍らで山菜取りも行ったが、それは子供にやらせた。そのぐらい切羽詰まっていたんだろうな」
この山に子供が入って山菜を見つけてこいと言うのは困難を極める。
実際の所は捨てたと言われても反論できない程に山は子供の足では広すぎるのだ。
「だが、運悪く町には疫病が流行ったそうだ。衛生面も大きかったんだろうが、そこで大人の多くは亡くなった」
「・・・・・・そうまで来ると最悪ね」
「俺達が食事に困らねーのがすげえことなんだって思うわ」
椿希と柳太郎が痛ましげな表情で感想を零す。
今は全員がそれなりに恵まれた生活を送っており、学校にも通って部活で遠出も出来ている。
その幸福は忘れるべきではないと思わされる。
「だから、子供達は今でも山菜を探してるって言われてる。皆の病気がなくなるように、食べ物を持って帰らなきゃってな」
「・・・・・・なんか、とっても悲しいね」
カンナもすっかり感情移入してしまったのか、悲し気な表情だ。
「その子供達を土地の守護霊として祀った小さな神社がある。そこでは健康や病気の祈願が出来るんだ。近くにあるんだし、たまにはお参りでもしようって話だ」
「さすがに霊を冷やかしに行く話だったら、今すぐ帰ってやろうかと思ったわよ。まあ、あんた達がそんな企画組むわけないと思ってたけど」
「馬鹿にしていい話ではないな。我々も他人の幸福を祈れるようになろうではないか。ついでではないが、彼らの冥福も祈りたい」
「・・・・・・思いのほか、すげー教訓になる企画じゃねーの」
鼻を鳴らした燐花や相槌を打った光はどちらも良識は持つ人間だ。
光の話も子供の霊の眠りを妨げに行こうというものではなく、今の幸福を実感して今後の健康に祈りを捧げようというものだ。
「途中で幽霊に会ったらお手柔らかにな。あくまでも、今回は皆の健康と幸福を祈る回だ」
そして、電車はようやく風観駅に到着する。
そろそろ昼食にしてもいい時間を迎えていて、光がここを選んだ理由はもう一つあるそうだ。
そこまで有名ではないが、海の近くということで海鮮料理が美味い。
下調べのしてあったこじんまりとした料亭に全員で入り、他には高齢の客が二名程度で店の中は空いていた。
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