第33話:乱入者


 白銀の騎士も互いに回避、一時的に戦闘を放棄して新たな敵に備える。


 二人とも、刃を交えてみて不意打ちをしてくる類の相手ではないという妙な信頼があったと言えよう。

 だが、今回の乱入者は人殺しを躊躇わない類の人間かもしれない。


「あのタイミングで躱すとはさすがですね、黒の騎士」


 隠れることなく、手を出してきた人物は目の前に現れた。

 長い髪を後ろに括った女性で、その所作からは気品を感じるが何より注目すべきは黒と白の激闘を見ても介入してきたことだ。


それなりに力量には自信があることがそれだけでも伺えた。


「呼んだ覚えはないぞ、誰か知らないけどな」


「私はこの場所に黒の騎士が来るという情報を受け取って、来たまでです。貴方も知らないのであれば・・・・・・」


 二人の視線が白銀の騎士へと注がれるのも当然だった。

この場所の情報を知っている人間がいるとすれば、状況から見てもこの場では一人しかいないからだ。


「俺が情報を流した。コミュニティー、レギオン・レイドにな」


「レギオン・レイド・・・・・・?」


 それは規模の大きいコミュニティーの一つのはずだった。


 金も自力で調達する自立したコミュニティーとしての注目も大きく、変異者を使った裏賭博等で稼いでいると聞いている。

 ただし、無意味な殺人などは禁じたりと放置しても実害自体は少ないチームだったので特に関わることはなかった。

 エンプレス・ロアは人数の少ないチームなので、他の人を殺さないチームにまで手を出す余裕はない。


「後は二人で話し合うなり戦うなり、好きにしろ。俺の目的は果たされた」


「待てよ、そう簡単に帰られても困るんだよ」


「事情を詳しく聞かせて貰いたいものですね」


 踵を返す白銀の騎士に対して、楓人も女性も制止をかける。


 楓人との戦いの目的が本当に黒の騎士の抹殺だったのか、レギオン・レイドと引き合わせた理由、色々と聞きたいことがあった。

 そして、逃げられた時の為に楓人は密かに裏に回した手でデバイスのスイッチを入れる。


 燐花への合図と配置された人員への戦闘準備を促す。


「そうはいかんな」


 ぐっと不意に拳を握る白銀の騎士。


 瞬間、地面がぼこりと隆起するとコンクリートが舞い上がる。

 変異者の欠点として能力があまりに強力故に周囲の物体を利用した攻撃が意識から消えがちだ。

 楓人もそれは承知しており、先程も意識の外からの攻撃をした。


 しかし、糸を仕込んだ地面から瓦礫が飛んでくるのは予想だにしていなかった。


「何を・・・・・・!?」


 女性の方も手練れなのは明らかで、素早い身のこなしで咄嗟に飛来した瓦礫を躱していく。

 これだけの数を見て躱し切るのは、変異者の中でも優れた身体能力を持った人間だけだ。

 瓦礫がぶつかったからと言って変異者は死ぬわけではない。

 だが、糸によって飛来した礫は怪我はするだろうと思わせる速度と威力だった。


 だから、反射的に楓人は女性に向かった瓦礫の幾つかを蹴り砕いた。


「・・・・・・・・・逃がしたか」


 大量の瓦礫の陰に隠れて白銀の騎士は既に姿を消していた。


 果たして燐花達が追えるかはわからないが、具現器アバターを装着したままで逃げ回るのなら捕まる可能性はある。

 だが、あれを相手にして制圧できる可能性があるのは怜司くらいのものだろう。


 逃がした時点で楓人の落ち度であることは、はっきりしていた。


 だが、逃がしたことに落ち込むよりは目の前の女性の件に取り組まねばならない。

 相手はレギオン・レイドの一員で、黒の騎士がいると知って派遣されてくるということは相当に立場が上なのだろう。


「貴方、今・・・・・・私を庇ったのですか?」


「俺に当たりそうだったんだよ」


「下手な嘘ですね。そのことに関しては感謝しておきます」


 女性は微かに笑うと小さく頭を下げて来た。

 レギオン・レイドはリーダーの統率が行き届いたチームと聞いていたが、彼女の態度からは無暗に争いを挑んでくる様子はない。

 爆破を仕掛けた時も“躱されるとは思わなかった”と言ってはいたものの、躱す余地のある攻撃をしていたことは察している。


 二人の戦いを見て、防御力が卓越していることも計算に入れていたはずだ。


「それで、俺と戦うつもりか?こっちとしては平和に行きたいんだけどな」


「・・・・・・黒の騎士、貴方は意外に普通なのですね」


 驚いた表情で女性は楓人の黒い仮面に視線を注いでくる。


「普通ってどういうことだ?」


「もっと寡黙な人間かと思っていましたから。失礼ですが、円滑に会話が成立していることに驚きました」


「・・・・・・俺ってそんな印象だったのか」


「まあ、いいでしょう。申し遅れました。そうですね、私は・・・・・・ケイとお呼びください。レギオン・レイドのリーダー補佐をしています」


 話題が逸れたと感じたのか、改めてケイと名乗る女性は挨拶から入る。

肩書きからも判断できることではあるが、コミュニティーのリーダーから直接に指示を受けるほどには地位が上の人物らしい。

 印象としては真面目だが、瞳には理知的な光と楓人の出方を伺う冷静さが

同時に宿っている。

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