第27話:それぞれの恋愛事情
二人が店を出て行った後、残されたのは三名。
「まあ、ナイスアシストなんじゃないの?」
カンナが弄られることも多いせいで、あまり内部で他のメンバーに関する恋愛のことは話題に上らない。今までは全員が何となく察しつつも、明璃と怜司の関係は具体的には言及されなかった。
果たして、恋愛事には無頓着な怜司がどこまで気付いているか。
「たまには二人きりにしてやるのもいいだろ。後は明璃の頑張り次第だ」
「でも、あんたも明璃の気持ちに気付いてたんだ。恋愛には鈍いと思ってたけど」
「あんなん見てれば気付くよ。うちは仕事に支障が出ないなら自由恋愛だからな。納得いくようにやればいいさ。こじれるなら俺も話はするよ」
メンバー同士がくっつこうが、その結果として戦いで隙を晒す結果にならないのであれば口うるさく言うことはない。
メンバー全員に幸福になって欲しいというのが、リーダーとしての願いだ。
仮にエンプレス・ロアで育まれた絆が恋愛感情になるとすれば、創設者としてはむしろ非常に喜ばしい結果なのだ。
「その割には、ねえ・・・・・・」
意味ありげにカンナと楓人を見比べる燐花。
言われなくてもカンナの気持ちに気付かない程、鈍くはないつもりだ。
カンナは
だから、彼女との関係の進展はまるで考えなかったわけではないが、二人の関係は複雑で簡単に進めばいいというものでもない。
「俺にも色々あるんだよ。少なくともコミュニティーが落ち着くまではな」
「・・・・・・・・・あはは」
カンナは気まずそうに、もじもじと体を縮めて頬を赤らめる。
彼女が答えを求めたことはないし、状況も理解しているが故に何も言わない。
戦いの際も日常でも既に一心同体に近いと言える二人だからこそ、今の関係を変えるのは簡単ではない。
「ま、問題はカンナだけじゃないから仕方ないか」
意味ありげな発言だったが、楓人はあえて突っ込まなかった。
燐花はカンナの気持ちも楓人の気持ちも理解しているが故の発言だろう。答えを出せないのは仕方がないが、いつかは答えを出してやれと言いたそうだ。
普段はずけずけと思ったことを言う癖に、こういう時は気を回してくるのが燐花という女の粋な所ではあった。
「あ、楓人。とりあえずお茶おかわりね」
「わかったよ。俺も飲みたいし淹れ直すか」
あえて話題を変えるように飛んできた無遠慮な注文に、楓人は立ち上がってお茶の準備を始めた。
「ちなみにお前はどうなんだよ。好きな男とかいないのか?」
「あたしは・・・・・・特にないわね。戦う前から完全に諦めてるし」
さっぱりとした表情で肩を竦めてよくわからないことを言うのを見るに、どうやら好きな男がいたことはあるらしい。
彼女の性格なら真っ向からアプローチしに行きそうなものだが。
「燐花って優しいし、男の子に人気あるんじゃないの?」
「あたし、納得できないと結構キツいこと言っちゃうからダメよ」
「男共の中じゃ、お前の評判悪くないけどな。理想の男はどんな感じなんだよ?」
「人気かどうかは知らないけど・・・・・・そうね。顔は普通以上ならいいわ。人に優しく出来て、自分の信念を持ってる人かしら。精神的に自立出来てる人だとなおいいかも」
「だいぶ、ハードル高いな。そんな男を捉まえられることを祈ってるよ」
「・・・・・・いると思うけどね」
カンナから目線を感じるが、特に思い当る節はなかった。
燐花の本当の優しさを知る男が出てくれば、きっと上手く行くだろう。
「そういえばお前、柳太郎と仲いいよな」
「止めてよ、アレは別枠。なんかこう、似た者同士なのがわかるから同族嫌悪って言うか・・・・・・まあ、悪い奴じゃないけど恋愛対象外ね」
柳太郎がどう思っているかは知らないが、現状では脈はあまりなさそうだ。
連也からしてみれば二人は相性抜群だし、柳太郎ならば安心して燐花を嫁にやれるのだが・・・・・・と父親のようなことを考える。
コミュニティーのリーダーをしていると、思考がどうにもジジ臭くなる弊害があるのかもしれない。
「仁崎くん、いい人だと思うけどね」
「意外と人のこと見てるし、こっそり気は遣うし、話してて楽しいっちゃ楽しいんだけど・・・・・・って何よ、その顔。勘違いしないでよ」
楓人がにこにこと燐花を見ているのを見咎められた。
「お前が他人のこと、そこまで話すの珍しいな」
「・・・・・・はあ、別に嫌いじゃないってだけよ」
それっきり珍しく繰り広げられた恋愛談義は終わってしまった。
その頃には怜司も帰還していたので、どんな話をしたのかを探ることにした。
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