第26話:緊急会議-Ⅱ


「それでは、私から作戦の提案があります」


 意志が纏まったタイミングを見計らって怜司が口を挟む。

 メンバーの意志を纏めて決定を下すのが楓人の役目で、作戦を形にして方針を提案するのが怜司の役割になっている。

 エンプレス・ロアは楓人とカンナから始まり、怜司が形式を整えたチームだ。それぞれに向いている役割など解り切っていた。


 万が一にも戦闘になってしまった場合、今回の作戦の核は燐花。


 探知を持つ性質上から重要な役割を担うことが多かったが、今回は変異者としての力量を買われての抜擢である。

 待ち伏せされるのは承知の上、それならこちらも備えをして挑むだけだ。


「今回、私は直接的に戦闘に参加するのは避けましょう。自由に動ける人員を確保すべきですし、何より私は今回の作戦と相性が悪い」


「あたしは怜司の能力に巻き込まれるのはまっぴらよ。そもそも、あたしと能力的に相性悪いのよね」


「私は性質からしてリーダーや明璃以外と組みにくいですからね」


 今回の作戦は前線に立つ楓人を全員で援護する形になる。

 怜司の能力は使い方を誤れば周囲の人間を巻き込むので、怜司はこの場合は単騎で動かせた方が力を発揮できる。

 楓人に迫る強力な変異者かつ優れた頭脳と隙がない代わりに、チームで動く時には扱いづらい面もあるのが白井怜司の欠点だった。


「怜司の作戦通りに行く。ただ、明日になって相手から場所の指定があった時にはう一度配置は見直す。土地によって配置も変わるからな」


 全員がそれで異論はないようで、楓人の言葉に首肯で応えた。


 現状で考えられるだけの作戦方針を固め、今日はこのくらいで事前のミーティングを終えることにした。これ以上は場所が未定である以上は無意味だし、オンとオフを切り替えていかないと正常ではいられない世界だ。

 遊びのつもりは微塵もないが、適度な遊び心は作戦以外の場では忘れないように楓人自身が心がけていた。


 その後、楓人が淹れた温かいほうじ茶を啜りながらフリータイムとなる。


「こっちのお茶もたまにはいいわね。あ、それと今日は泊っていくから」


「まあ、別にいいけどお前の着替え一着しかないぞ」


「今日、新しいの持ってきたから大丈夫よ。それにしても、あたしの着替えの数やけにすんなり出て来たわね」


 訝し気な視線を楓人に送りながらお茶を啜る燐花。


「当たり前だろ、たまに洗ってるからな」


 さすがにずっと置きっぱなしでは問題なので、時々だが洗って干している。

 女の子の服や下着を洗うのには当然ながら抵抗はあるが、気心の知れた燐花だし許してくれるだろうと思っていた。


「はぁっ!?着替えってパンツもあるんですけど!?」


「安心しろ、パンツはまだ一回しか洗ってない。無洗濯ってわけにもいかんだろ」


「・・・・・・変態、痴漢、洗濯妖怪」


 適当に思い付いた単語を並べ立てて来るが、楓人がやましい気持ちでパンツを干しているわけではないと悟っているので語気は弱かった。

 元から、男の家にパンツを置いて帰るのが常識外れだと理解しているようだ。

 燐花は騒がしい上に気も強いが、決して自分の行動を見返せない人間ではない。


「ああ、一応フォローしとくと手洗いはさすがにしてないからな」


「ご丁寧にありがとッ、わかってるわよ!!」


「大体、そんなの今更だろ。カンナのパンツなんか大体は俺が干してるぞ」


「そ、その情報いらないよね!?」


 慌ててカンナが顔を赤くしながら抗議してくる。

 別に下着くらい何度も目にしていることだし、洗濯機で洗って干すくらいでそこまで気にする必要があるのか。

 男に下着を触られるのは女の子からすれば嫌かもしれないが。


「別にカンナは楓人にパンツを干されて喜び感じる種族だし、いいけどさ。まあ、あんたに任せたあたしも悪かったし、今後は自分でやるわ」


「へ、変態みたいに言われてる・・・・・・」


 愕然とするカンナだが、一瞬だけぎくりとした表情をした理由は問うまい。

実はむっつりな一面があるのはよく知っているので、多少こじれた性癖を持っていたとしても寛大な心で受け止めよう。


「ま、まあパンツはともかくちょっといいかな?」


 口を挟み辛そうだった明璃がついに会話に入ってきた。


「わたし、明日は午前中に用事があるから帰ってもいい?」


「ああ、お前の予定に合わせろよ。ただ、昼過ぎには来れるか?」


「大丈夫だよ。ごめんね、時間には絶対に間に合わせるから」


「謝ることはないだろ。こっちも大事だが、自分の予定も大事にしろよ」


 それはエンプレス・ロアの掲げる全体の方針でもある。

 コミュニティーの関係を最優先で動いて貰うこともこれから先はあるだろうし、今までにも何度もあった。

 だからこそ、時間の融通が利く時は予定を優先して動いても構わない。


「それなら怜司、送ってやれ。ちょっとくらい散歩してきてもいいからな」


「わかりました。それでは明璃、行きましょうか」


「あ・・・・・・う、うん」


 明璃はちらりと楓人を一瞥してきたので、にやりと笑って頷く。

 わざわざ怜司に送らせたのは色々と事情があり、楓人は察していたが明璃は以前から怜司の事が気になっている様子だった。

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