第25話:緊急会議



 すぐに全員に緊急会議と称して収集をかける。


 早めに部活が終わったのもあって時間としては普段よりは幾分か早いが、明日でいいかと構えていられるような問題ではない。

 こうして無茶を要求していることもあって、管理局から支給される手当は他のメンバーの分を多めにしている。


 さすがに事態の重要性が理解できたのか、全員がすぐに集まってきた。


 明璃は大学の授業中だったが、何とか授業をすっぽかして来てくれた。

 緊急で呼び出したとはいえ、出席中の授業は受けろと諭すも明璃はコミュニティーを優先すると言って聞かなかった。

 リーダー的には変異者であることが理由で、メンバー達が平穏かつ楽しい日常を送れなくなるのは避けたい。


 日常を取り戻す為に戦っているのだから、日常が損なわれては意味がない。


「それじゃ・・・・・・今日のロア・ガーデンに書き込みがあった。怜司とはもう一通り話し合ってはいるが、まずはこれを見てくれ」


 パソコンの画面を全員で眺めて書き込みの内容を見せて意見を募る。

 感覚派であるカンナと燐花、怜司に準ずる頭脳明晰な明璃からは万が一にも見落としている点を指摘されることを期待していた。

 無論、見落としが無いなら無いで作戦に穴がなかったので良いことである。


「なるほど、これって要は黒の騎士自身が来いって意味だよね?」


 すぐに明璃は書き込みの内容を見ただけで、相手が暗にこちらに求めている行動を容易く悟ってくれた。

 明璃も頭の回転は速く、コミュニティー内では怜司に次ぐご意見番だった。


「現地で待ち伏せでもしてるのかなぁ?」


「何かしらはあるだろうが、問題は場所をこっちに書き込んでくるかどうかだ」


 わざわざ掲示板を使用した事実から、相手は不特定多数に見られる方が望ましいと考えるべきで他コミュニティーもここに呼びたいということだ。

 場所だけは伏せてメールで来るならば本当に情報提供の可能性も出て来るが、他のコミュニティーに場所をタレ込んであるパターンも有り得る。

 何にせよ、八割方ろくな企みではないだろう。


「“どちらにしても行かざるを得ない”ってのが俺と怜司とカンナの共通意見だ」


 既に三人の意見は残りの二人を呼ぶ際に前以て纏めてある。

 カンナと楓人は戦う時は常に同じ戦場にあるので、楓人が戦うことに彼女が反対してくるはずもない。


「・・・・・・それってフウくんが行くってこと?」


「ああ、顔を見られる危険性なしで戦えるのは俺だけだ。それにお前らのことも信頼してはいるけど俺は絶対に勝つ。それは今までと変わらない」


 黒の騎士は最強の都市伝説、カンナと楓人が共にある限り敗北はない。

 アスタロトを十分に使いこなしている自信はあるし、アスタロト自体の高い能力と重ねた研鑽にも高い信頼を置いていた。


「すっごい自信じゃない。普段はわりと自分のことは控えめに言う癖にこういう時は言うわね」


 燐花が茶化すように言うが、楓人がこのメンバーの中でも最も変異者としての能力が高いことは異論はないようだ。

 別に強いからといって力で無理に従わせるつもりもない。ここはそういう上下関係を振りかざす為の場所ではないのだ。

 力があるから偉いではなく、戦う時に誰が表に出るべきかの相談をしている。


「これでもコミュニティーの未来に俺の勝敗が大きく関わるのはわかってるさ」


「ま、そうよね。黒の騎士がいるって保険で成り立ってるみたいなもんだし。ちょっと癪だけどね」


「フウくんに負担かけるのもよくないと思うんだけど・・・・・・今回は仕方ないか」


 コミュニティーに入った時期が一番遅い明璃も、未だに楓人の能力を活かした作戦を組むことに抵抗はあるようだった。

戦う力があることと、一人で背負うことは違うと彼女は言いたいのだろう。

 それでも他のメンバーは楓人の力量を信頼して、心配こそするが結局は任せてくれている。信頼には可能な限り応えるのが真島楓人の性分だ。


「大丈夫だよ、俺には矢面に立つくらいしか出来ないからな」


「ただ、約束して。困ったら絶対に助けを求めること。わたしは一人で全部解決してほしいなんて思ってないから」


「ああ、わかってるよ。一人で出来ないからチームで動いてる。そんでもって、エンプレス・ロアは最高のチームだ」


 明璃の気持ちに自信を乗せた笑顔で応える。


 このチームが最高なのはリーダーの楓人が一番知っていることで、彼らがいるからこそ自信を持って戦っていける。

 自分が全てを一人で何とかする器を持っていないことはよく知っていた。

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