第22話:映る姿
どうやら椿希は今日も手芸部で忙しいらしく欠席だ。元から参加は自由なので、柳太郎を加えた五人で今日の部活は行われる。
「とりあえず前回の都市伝説は実際の確証は得られなかった。それはとりあえず保留リストに入れて、新しいものを漁っていこう」
都研には未解決だったものを纏めたファイルがあり、そこに文書形式で印刷したものが入っている。
そして、ネタがなくなった時に議論の対象にするのだ。
楓人からすれば、さりげなく変異者絡みの都市伝説をお蔵入りさせる狙いだが、柳太郎や光も異論はないようだった。
「それで、新しいものはあるのか?」
大体は情報を持ち寄るのが恒例で、なければ各自ネットサーフィンだ。
「ここの学校絡みのやつがあるぞ。知り合いから聞いたんだけどよ」
柳太郎が名乗りを上げ、全員の視線が集まっていく。
今までの良質なネタ提供率が光先輩と並んで非常に高い男の自信ありげな発言が期待されるのも当然だ。
「この学校の科学室の隣に小さな物置があるだろ?あそこには鏡があるらしい。そいつが特別製でな」
それは学校ではありがちと言えよう、備品関係にまつわる都市伝説。
柳太郎が聞いた話によるとその古ぼけた鏡はただの鏡ではないらしい。
古ぼけた鏡が映すのは本来は映らないものという専らの噂である。
「何を映すってのよ、幽霊でも映るの?」
「それが自分の本当の姿を映すらしい。本当の姿がどんな風かわからないけどな。性格悪い奴なら悪魔が映ったりとかなんかね」
「あたしだったら何が映るのか気になるわね」
「笑いの神でも見えるんじゃねーの」
「そんなものいたらギャグ披露させるわよ」
「・・・・・・神様に宴会芸させんなっつの」
柳太郎とツッコミの応酬を繰り広げる燐花。
二人のじゃれ合いを放置して楓人は本当の姿の意味を考える。
まさか変異者の話ではないだろうし、ここにあるなら検証するのも悪くない。
「行くしかないな。学校にある謎で今すぐに検証できる。これほどの優良案件は他にあるまい」
光先輩は非常に乗り気で、他のメンバーも目線で了解を取り合う。
都研のメンバーとしては特に嫌がる理由もない。
都市伝説を見つけたら基本的に検証、協議が部活動としてのメインテーマである。
まだ吹奏楽等で校内に残っている生徒もまちまちだったが、特に不審がる視線を送られることもなかった。
全員で三階の化学室隣にある謎の物置きに辿り着く。
その部屋は古ぼけた扉で鍵も締まっていない。
最早、落とし物の傘や使えなくなった備品などが置いてあるだけの物置状態だ。
「この人数で入るには狭いし、この順番に入ろうぜ」
柳太郎の提案で二人ずつ入ることになり、最初は楓人とカンナが入る。
部屋の中に入ると微かに埃が舞って微かに咳き込む。
問題の鏡を二人して探す。
「あったよ、あれじゃないの?」
カンナが鏡を発見して、すぐ傍に近付く。
そして、その鏡に自分の姿を映した時に楓人は異変に気付いた。
鏡が薄く輝いた気がして、鏡には妙なものが映っていた。
「あ、れ・・・・・・なんで?」
鏡に映っているカンナからは漆黒の霧のようなものが覆っていた。
いつも楓人とカンナが戦う時の黒い風にも似ていたので、慌てて事実を確認する為に楓人もその隣に姿を映してみる。
「マジなのかよ、この不思議現象」
漆黒の装甲を装着した騎士の姿がバグの起こった画面のようにぶれながらも映っていた。確かにその姿は戦っている時の二人に相違なかった。
変異者の本当の姿さえも正確に映してしまう鏡。
こんなものが存在しているとは思わなかったが、これを柳太郎達に見られるわけにはいかない。
だが―――
「おーい、二人ともどうかしたんかよ?鏡あったのか?」
柳太郎がドアを開けて顔を覗かせ、反射的に楓人は体でその鏡を隠した。
「ああ、あったけど特に何もないぞ」
そう言いながらも素早く鏡に映らないように体を避けた瞬間、鏡にはきらりと何かが光った気がした。
まるであの獣使いを殺害した者の能力と思われる糸のような光だった。
「・・・・・・・・・ッ!!」
咄嗟に天井に目を凝らすが気のせいだったようだ。
周囲を気にするのはいいが、あまり気にしすぎるのもよくない。妙な事件が続いたので神経が過敏になっているのかもしれなかった。
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