第23話:お茶の時間
「それじゃ、狭いんだから早く出ろよ。次はオレ達が入る」
燐花と光先輩が最初に入り、続いて柳太郎が入室する。
辛うじて燐花にメッセージを打って“能力が映る変な鏡、気を付けろ”と簡易的な内容で注意を促した。
意味ありげに携帯に触れてみせたところ、燐花は意志を汲み取ってメッセージを確認していたので彼女なら上手くやるだろう。
「・・・・・・ありがと、セーフだったわ」
最初に出て来ると右手を振りながら、小声で囁いた燐花はため息を吐いた。
どうやら右手に何かを持っている映り方だったのを、何とか体で塞ぐなりして誤魔化すことに成功したらしい。
まさか、こんな所で変異者であることがデメリットになるとは思っていなかった。
だが、逆に言えばこの鏡は今後に何かの使い道があるかもしれない。
「何だよ、空振りか。何も映らねーじゃんか」
「俺は上半身裸になっていたが、何も映らないのか?」
「「「「はっ・・・・・・?」」」」
四人分の声が重なるが、光先輩は満足げに笑っていた。
どうやら変な所がある人物なのはわかっていたが、鏡内部でひん剥かれていたことには特に何も感じない人種らしい。
「裸とは美として捉えられていた時代があるという。俺はすなわち美しい心をした人間ということだな」
「鏡に剥かれて何も思わない時点で、ネジ何個か落としてきてるわよね」
「まあ、先輩はいい変態さんだからな」
楓人のフォローも空しく、真実を映す鏡は色々な意味で正しい姿を映してしまうようだった。
迷信と思われたが、鏡にもこうして不思議な力が宿っていることがわかった。
やはり、世界のどこに不可思議なものは転がっているかわからない。
そんな教訓を残して、本日の鏡事件は素早い解決を迎えたのだった。
残りの時間は部室に戻ってお茶の時間になった。
元からやる時は真面目に取り組んで成果は残すが、特に何もない時にはそれなりに緩さには定評のある部活なのだ。
「はぁー、今日もそこそこ働いたわね」
「鏡を見に行っただけだろ・・・・・・。まあ、立派な活動だけどさ」
伸びをしながらテーブルの煎餅に手を伸ばす燐花に、同じく煎餅をかじる楓人は椅子に腰掛けてまったりしながら突っ込む。
今のように学校の生徒が都研へ積極的に情報を出してくれるようになるまでは、お茶を飲む時間を多かった。
部室には持ち寄ったおやつが置かれ、まったりと雑談タイムを繰り広げる。
都市伝説に関しての議論には最低限は参加するのなら、部活としての活動を行わない日がたまにあってもいいだろう。
実際、この緩い空気で部活をやるのが楓人も嫌いではなかった。
部活は既に楓人の中で、守るべき大切な時間として数えられているのだから。
「煎餅って消化されるのに時間がかかるから胃に悪いとか言われてたけど、特に根拠がない嘘らしいのよね」
「ああ、食べ物には色々と噂があるよな。炭酸飲料で骨が溶けるとかだろ?」
「そーいや、そんなんあったな。コーラ飲むと病気になるとか信じてた奴もいたもんだよ」
幼い頃にも色々な一種の都市伝説が親や友人から聞かされたことはあった。
触ると皮膚に異常が出る花とか、毒があると言われている虫だとかだ。
都市伝説とは人々の間に伝承される噂などのことと都研では定義していて、ホラー系もここに含む。
幼い頃に信じていた都市伝説が生まれた背景は様々だ。
親が子供の教育の為に教えたことが広まったり、誰かの勘違いが伝言ゲームのように姿を変えていった例もあるだろう。
何にせよ、共通していることは人の口から口へ伝わっていることだ。例えばロア・ガーデンで広まっている噂も一種の都市伝説と言える。
現代社会では猶更、情報伝達が豊富なので都市伝説は多く生まれやすいのだ。
「そういえば、今更だが・・・・・・この学校も都市伝説の類が尽きんものだな」
光先輩が今更ながらに疑問の声を上げる。
何となくこの街で育った人間はそういうものだと慣れるが、光先輩の家は蒼葉市の郊外にある屋敷なので印象にないのかもしれない。
その理由は変異者がいるせいと言っても過言ではない。
蒼葉市を中心に発生した変異者の能力は全て後天性のものとされていて、変異者が生まれた理由がこの街にはあるはずだ。
戦い続ければ、その理由もきっと見えてくるのかもしれないが。
未だに解明されない謎が多い街、それが蒼葉市だった。
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