第18話:アスタロト
夜になってメンバーは電車で移動を開始することになった。
実際に人が死に続けてる以上は予断を許さないし、ロア・ガーデンで得られた情報は早い段階で検証するべきだ。
情報には鮮度も大切で、現代社会では情報をどう使うかが重要である。
メンバーは楓人が決めた通りに怜司・カンナ・燐花・明璃を連れて行く。
普段は誰かを残すのだが、今回は人手が必要だと判断した。
何より戦力になるはずのカンナは単純な人員としては数えにくい事情があった。
夜は向こうで行動を開始するので、早めの食事は済ませておく。
「配置に着いたら一度連絡を取り合うからな。配置は言った通りだ」
「了解、上手くやりなさいよ。リーダー」
「オーケー、わたしも待機してるからね」
「それでは一同、ご武運を」
全員で額を突き合わせて決めた配置に従ってメンバーは散っていく。
そして、敵の位置から計算した追い込みポイントへと楓人とカンナも向かう。
ここまで敵の移動経路を絞れたのは、時間がない中で傘下のコミュニティーの人員達が情報を寄越してくれたからだ。
「さて、そろそろ行くぞ。カンナ」
「オーケー、準備万端だよ」
二人の役割は機動力を奪って追い込まれて来た敵を狩ること。
また今日になって、一人が鋼の狼によって殺された。
楓人達がもう少し早く動けていたら犠牲は防げたかもしれない。
暗くなりかけた中で、楓人とカンナはビルの上まで階段を使って上る。
高い所から俯瞰できる方が、動き回る敵は見つけやすいので十階建てを超えるビルを選んで街を見下ろす。
「配置に着いた。何かあればすぐに報告してくれ」
ハンズフリーで会話できる小型デバイスを耳に着けて、通話をオンにした状態で待機して状況の変化を待つ。
まずは探知能力を持つ燐花が絞ったエリアを歩き回って位置を補足する。
続いて怜司と燐花で機動力を奪うのが作戦のキモにはなるのだが、この段階ではあえて倒さないことになっていた。
最初の段階で鋼の狼を倒せば、操っている人間もすぐに逃走する。
恐らく狼型の具現器を操るにも限界距離があるはずだ。
少し敵を泳がせて最後に確実に捕まえる。
その際に一般人の犠牲を出さない為に逃走ルートを誘導し、楓人の所まで追いやる作戦が最良に思えた。
待っている内に時間は過ぎて行き、空は真っ暗になっていた。
「今夜は標的以外の敵が出ないといいけどな」
標的を追っていたら、他の勢力が出たことも過去にあったので警戒は必要だ。
今回は管理局に頼んで、市民を泣きこまない為に一部通路を封鎖させた。
詳しくは知らないが管理局は国家の息がかかった組織なので、その程度は造作もなくこなすだろう。
「どうかなー、最近物騒だし・・・・・・」
「物騒ってレベルじゃないだろ。爆発くらいは平気で起きてるよ」
「あはは、だよねぇ・・・・・・」
その後も何か呟くカンナに適当に返答しながらも、逸る心を何とか鎮めながらも戦闘体勢を整えていた。
そして、ついに携帯デバイスから待ちかねた知らせがあったのだ。
『楓人、恐らく速度的に五分後。そっちに追いやったから後は頼むわよ!!』
『リーダー、予定通りそちらに行きました。右足を負傷させましたが、進路は変更ありませんね』
機器に耳を付けると燐花と怜司の声が聞こえて来て、了解と答えておく。
どうやら民間人に犠牲を出さずに、傷まで与えて誘導に成功したようだ。
事前に打ち合わせていた通りの完璧な戦果を仲間が上げてくれた、後は楓人が鋼の狼を打倒すれば事件は終わる。
「わかった、そろそろ俺達の出番だな」
立ち上がって、ビルの下に当たる裏路地を見下ろす。
蒼葉市で広がっている噂に違わぬ狼の姿が、人としての限界を超える視力では容易に捉えられた。
カンナのみを楓人がパートナーと呼んで特別に思うのは理由がある。
身体能力に優れるはずの彼女が敵を追い込む側に配置されず、楓人の傍に置いているのも同じ理由だ。
―――少年は少女を呼んだ。
日常を過ごす名前から、共に戦う相棒の名前へと変えて。
“来い、アスタロト”。
力の篭った響きに、カンナと呼ばれていたアスタロトはそっと目を閉じる。
その刹那、カンナの姿は漆黒の霧状の何かへと霧散して変化した。
意志を持つように楓人の体に絡み付く黒き風は、確かな実態を持って夜に溶ける漆黒の輝きを放っている。
物理現象として発現したのは、漆黒の機械的なフォルムを持つ全身装甲。
瞳に当たる部分には小さな蒼色の水晶、右手には漆黒の鋼の柄が握られる。
そして、装甲に包まれた右手に提げるは漆黒の長槍。
先端の刃は炎の如く禍々しくうねり、蒼の亀裂に似た文様が美しさを描き出す。
これが真島楓人の
同時に雲雀カンナと名付けられた少女の正体であり、現状で唯一の人間としての個体を併せ持つ唯一無二の
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