第17話:狼狩りへ-Ⅱ
集まったのは楓人、カンナ、怜司、燐花、明璃。
この五人がエンプレス・ロアの主要戦力かつ主要メンバーで、楓人が直接声を掛けて知り合ったチームの中核だ。
下には小さなコミュニティーがぽつぽつと着いており、総勢三十名に満たない数で活動しているのが現状である。
コミュニティーの規模としては決して大きくないが、この五人だけで他勢力を相手するに足りよう強力な変異者が揃う。
戦う相手も存在しなかった現代において、自分なりに研鑽を重ねた戦闘向きの変異者はそう多くはない。
「それで、どうするの?フウくん」
明璃が最初に口を開き、楓人は一つ頷くとカウンター席に腰かけた。
「ねえ、楓人。とりあえずコーヒー」
「ちょっと我慢しような。燐花は強い子だなぁ」
「何か腹立つわね・・・・・・。わかったわよ、大人しく聞くってば」
「私がやりましょう、リーダーは話を進めてください」
怜司が率先してコーヒーの準備をしてくれて、楓人は残るメンバーを見渡した。
コーヒーの腕前は楓人と怜司はほぼ互角と言えるレベルにはなっていた。
生計を立てる一要因として本気で取り組んだおかげか、飲む人間を唸らせる腕には上達した自負はある。
それはさておき、すぐに決めるべきは今後の方針だ。
「話した通りだが、殺人を続けている鋼の狼についてだ。あいつを放っておくわけにはいかない」
今回、殺された人間の代わりに椿希や柳太郎、大事な人達が犠牲になっていたらと考えると耐えられない。
楓人の知人に限らず、理想を謳うならば変異者の争いに巻き込まれて死ぬ人間など一人だって出るべきではない。
だから、変異者の世界にも確固たる法が必要だ。
人を殺せば裁かれる、こんな法律すら超常の世界にはない。
誰の居場所も理不尽に奪われずに共存できる世界を創りたい、その理念でここにいるメンバーは集まった。
何かしら過去の事情を抱えながらも、共通の目的に向けて走り続けるのがエンプレス・ロアの在り方だ。
「でも、凄いスピードで移動してるんだよね?」
管理局からも何度も情報は来ているが、高速で移動する
アレを確実に捕獲するには接近した上で動きを抑える必要があるだろうが、逃げ回られては厄介だし犠牲者も出る。
「ああ、だから今回も燐花の探知を使う」
「それはいいけど、あたしが探知した所で逃げられたら終わりよ」
燐花の探知も万能ではなく、距離や精度にも限界がある。
例えば、
燐花自身の集中力も割かれる故に使い所を絞らなければならないが、それでも大きなアドバンテージなのは間違いない。
「怜司が動きを鈍らせて燐花が機動力を奪って俺がフィニッシュ」
「うわー、単純明快・・・・・・」
燐花に半眼で見られるが、このメンバーを上手く使うならこれが最適だ。
「まあ、単純だけどそれが効果的だよね。わたしは?」
「逃げられた場合は明璃に始末を任せるつもりだ。俺達で逃走経路は限定できるから何とかなるだろ」
「了解、わたしはそれでいいと思うよ。他の人は?」
全員の視線がリーダーの楓人に一斉に集まる。
その瞳はどれも信頼と強い意志で満ちていて、心から仲間に恵まれたと思う。
決して楓人は完璧なリーダーではないと自覚しており、怜司や他の人間に言われて過ちに気付くことも多々ある。
そもそも、リーダーとしての威厳も知識も能力さえも不足気味だ。
それでも、彼らは楓人を信じて力を貸してくれている。
色々と疑問や反対意見があれば突っ込んでくる燐花でさえも目が合うと微笑み、カンナは信頼を瞳に浮かべて強く頷いてくれた。
リーダーとしての器ではなかったとしても、このメンバーを集めてエンプレス・ロアを創ったのは楓人自身だ。
皆の心の支えとして頼られる存在になれるよう、最後まで責任を負うべきだ。
楓人に出来るのは皆の精神的な支えになること、絶対に敗北しないことだけ。
「よし、決まりだな。狼を操っている奴がいれば無力化する。その前に―――」
「ウチに味方している人員を使いますか?」
「ああ、こういうのは数だからな」
怜司には事前に相談をしていることもあり、今後の計画の進め方に関してはわざわざ言わなくとも互いに察しが良い。
傘下のコミュニティーはこの五人ほどの強烈な意志はなく、社会人としての生活がある者も多いので強制はできない。
しかし、彼らは変異者の争いを終わらせたいと考えている人間の集まりだ。
あるいはエンプレス・ロアの庇護下に入って救われた者もいる。
―――情報が欲しい、動ける者は動いてくれ。
そんな指令だけで彼らは書き込みがあった現場付近を探索し、参加できない者は町を歩く中で意識を張り巡らせる。
人数がいれば情報は無数に広がっていく。
楓人達だけで獣と操者を相手にするだけの戦力は足りている。
実力的にも彼らには戦闘には極力参加させないで、事前情報の収集を担う情報屋として働いて貰うことが多い。
出す犠牲に関しては方針的にも、外聞的にも抑えなければならなかった。
「誰が来ようと俺達は負けない。何かあれば俺が必ず何とかする」
例え器でなかろうと、心強い仲間がいるが故に堂々と自信を抱えて立てる。
彼らを擁するコミュニティーが負けるはずがない、全員に支えられる黒の騎士が壊れるはずはない。
ネットの海で語られる黒の騎士は不敗を誇る、最強の都市伝説なのだから。
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