第14話:デート?-Ⅱ
「ま、いいわ。楓人の友人関係だから」
こういうさっぱりとした所は椿希の美点と言えよう。
相手をさりげなく気遣えて、親身になれる椿希はカンナ程のコミュ力おばけではないが女子の友達も多い。これだけ友人として出来た人間も世の中広しと言えど、そうそういるものではないはずだ。
「これが終わったら少し買い物に行かない?」
「ああ、いいぞ。今日は特に予定もないからな」
そうして、店員が運んできたものを見て、二人は固まった。
「本日のカップル限定のサービスです。ごゆっくりどうぞ」
カップルを否定しなかったことが仇になったようで、テーブルにはサイダーに色々な種類のアイスクリームが載ったものが置かれていた。
アイスクリームも見てわかる程に果肉がふんだんに使われており、市販でなく店で作ったものだろう。
問題はそこにはハート型のストローが二本刺さっていることだった。
「・・・・・・これ、そういうことだよな?」
「ええ、そういうことね。多分」
椿希は既に顔を赤くしてストローを眺めているし、さすがに友人としての一線を超えているのは間違いなかった。
親友以上、恋人未満とも言える微妙な関係を保ち続けてきた二人としては、起爆剤どころか核ミサイルに等しい。
「一緒に行くわけにもいかないし先飲んでいいぞ、俺は後から飲むから」
「・・・・・・折角だし、やってみない?」
「・・・・・・本気か?いや、正気か?」
「なんで、わざわざ言い直したのよ」
椿希がおずおずと言ってくるのを聞いて、楓人は後には引けなくなった。
女の子の方からここまで言わせておいて、後に退けば椿希の振り絞ってくれた勇気もまたズタズタになってしまう。
彼女なりに踏み出した一歩を小さな羞恥で踏みにじるわけにもいかない。
「え、ええ。やっぱり私とじゃ嫌?」
「そんなことは・・・・・・全くないけど」
大鎌を振るわれても眉一つ動かさなかった男が椿希の一言で狼狽える。
楓人は中々に壮絶な過去を送ったせいで、特に女性と付き合った経験はなかったので無理もない。
お試しデートくらいの経験はあるが、その後も付き合おうという気には特にならなかった程度の関係しかなかったのだ。
そんな男に最初から課す試練ではないだろうと、恋愛成就の神が存在するとすれば愚痴の一つも言いたくなる所業である。
「それじゃ、行くぞ。覚悟はいいな?」
「こ、こういうのは思い切っていきましょう」
羞恥を振り切って二人で、一緒にストローへと口を付ける。
女の子であることなど重々承知している昔馴染みの端正な顔が間近にあり、楓人も真っ直ぐに彼女の顔を見られるはずもない。
ここまで彼女相手に胸が高鳴り、妙な経験をしたのは人生でも初めてだった。
「何つーか、想像はしてたけど滅茶苦茶恥ずかしいな」
「そ、そうね。今の私達にはハードルが高かったわ」
二人とも、飲み終わった時にはお互いの顔を見ずに会話をしていた。
椿希が異性だなんて、とっくにわかっていたが友人として付き合ってきたのだ。
それを強引に意識させられて純粋に羞恥の念が先に来た。
「さて、もう買い物行くか。この店内で視線に晒されるのもキツい」
この時々、視線が飛んでくる店内に居座るのは中々に難問だった。
二人でそそくさと店内を後にするが、最後に楓人が明璃に手を振られたので手を振り返した。
そのままショッピングへと移行、ようやく二人の動揺も収まってきた。
「椿希、あれはもう止めておこう。知り合いにでも見られたら終了だ」
「私は楓人さえ良ければ、別にまたやってもいいわよ」
羞恥を乗り越えてたくましくなったか、椿希は済ました顔でそう言い出す。
「・・・・・・俺が恥ずかしいんだよ」
「楓人の彼女扱いされるのは慣れてるから」
その発言をどう取っていいかわからなくて、困り果てた楓人は頬を掻いた。
コミュニティーに関しては皆の助けがあって上手くやってきたつもりだが、こういうことはどうにも苦手である。
どう踏み込めばいいかが通常の物差しでは測れない所にあるからだ。
一瞬は気まずくなった雰囲気も長年の付き合いに助けられて、二人で歩く内にいつしか元に戻っていた。
自然体でいれば楽しい時間が過ぎ去ることを肌で理解している二人はショッピングランド内を巡るだけで十分だったのだ。
その道中に目的地も最初からなかったので何の気なしに本屋へ寄る。
「おお、最新刊出てたのか・・・・・・」
『二十分でわかる人心掌握術』を手に取ってカゴにぶち込む。
高校生である楓人が他のコミュニティーを含む人間のリーダー足り得るには、上に立つべき知識が圧倒的に不足しているのだ。
ついでにカンナがたまに読んでいるファッション雑誌の新刊が本日発売となっていたので土産代わりにカゴに突っ込んでおく。
カンナがいらなければ燐花にでもプレゼントしてやればいい話だ。
「楓人、人心掌握術って何?」
さすがに椿希からの突っ込みは避けられなかった。
このシリーズは全ての本屋に置いてあるわけではないので、ここで買っておこうと思ったのが失敗だったか。
「これも店長の分だ。俺達を上手く扱う方法が知りたいらしくてな」
怜司をダシに使わせて貰って事なきを得たが、内心は椿希にも怜司にも謝罪する。
出来れば椿希に嘘は吐きたくないが、変異者の話をするわけにもいかない。
所詮は高校生、上に立つ物としての心得を学ばなければならないのだ。
「ああ、そういうこと。誰か気を引きたい相手でもいるのかと思ったわ」
ファッション雑誌の方は男の方も少し混ざっているので突っ込まれなかった。
一々、不審でもない買い物の使い道について聞く程、椿希は口うるさくはない。
「いつの間にかこんな時間だな。どうする?」
携帯の時刻を確認すると、午後八時半前だった。
夢中で遊んでいる内に時間が大分過ぎていたので食事もしていなかった。
「そうね、どこかで適当に食事して帰る?」
「あ、そうだ。それならウチ来ないか?晩飯くらいなら久しぶりに俺が作るよ」
「そう言えば久しぶりに楓人の料理もいいわね。それならお邪魔するわ」
「今更だけど、おばさんは遅くなっても大丈夫か?一人娘だし心配するだろ」
「大丈夫、楓人と一緒って言えば何も言われないから」
「便利だな、俺の立場と名前・・・・・・」
椿希の両親と楓人は小学校の頃に一緒に遊び、親友として家を往来する関係だったので十分に面識があった。
今でも椿希の家に寄ると夕食まで勧められるが今の所は遠慮している。
こうして、買い物を終えた椿希をカフェまで連れてきた。
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