第12話:デート?



 そうして、翌朝を迎える。


 遅くまで起きていたのか眠りから叩き起こした怜司と共に仕込みを済ませ、楓人とカンナは家を出て普段通りに登校した。

 教室でいつも通りに級友達と挨拶を交わす、ここまでは日常なれど非日常は二人の周囲をいつだって取り巻いていた。


「なあ、ニュース見たか?」


 柳太郎が話しかけてきたのは自席に鞄を置いてすぐだった。

 今朝は怜司なしでは手がどう足掻いても回らない程に仕込みが忙しかったので、テレビをじっくりと見ている暇はない。

 話しぶりからするに、またしても何か大きな事件が発生したと見ていい。

 あれはただの愉快犯によるものなのか、そう判断するには状況が胡散臭い。


「また殺人だってよ。ここからは三十キロくらい離れた場所らしいけどよ」


「またか・・・・・・物騒ってレベルじゃないな」


「前回より遠くなってるオレらからすれば安心だけどよ、結局被害者はいるから複雑だよなー」


「ああ、そうだな。手口は前と同じか?」


「そう。俺らに出来ることはないんだし、物騒な話は止めて今日を楽しもうぜ」


 やはり、予定よりも早めに動かなければならないか。

 人を殺す変異者を放置するのはエンプレス・ロアの掲げる主義にも反する上に他のコミュニティーも注目しているだろう。

 ここで退けば、ようやく保ちつつある勢力の均衡は必ず崩れる。


 何より、楓人自身がその殺人を繰り返す狼を許せない。


「おはよう、二人とも」


 丁度、その時に椿希が登校してきて二人に声を掛ける。


「おう、昨日は手芸コンテストの課題終わったのか?」


 柳太郎が昨日、そういえばそんな事を言っていたような内容の話を振る。


「終わってないけど一段落はしたわ。来週の火曜日まで作業できるから、明日辺りで集中的に作業すれば楽に終わると思う」


「そーか、無理せず頑張れ。後、たまには都研にも顔出せよな」


「私だってたまには行きたいけど、こればっかりは仕方ないわ」


 椿希の手芸部はそれなりにレベルが高く、完成品を楓人も何度か貰ったことがあるが大した腕前だとしか言えない。

 年に二回の作品を出す場があって、最低一回は部員として参加必須らしい。


「あ、そういえばこれ光先輩から貰ったんだけど、椿希はムリか?」


 ふと、思い出したように柳太郎が取り出したチケットを差し出す。


 そこには、“蒼葉ショピングランド スイーツフェス優待券”と書かれていた。

 家が裕福かつ様々な業界に著名な知り合いも多い光は、たまにイベントの優待券を優先的に回してくれるのだ。

 表記されている参加人数は二名まで。期限は明日までになっていた。


「お前らか燐花が行けばいいだろ。俺は別に余ったらでいい」


「私も余ったらでいいわ。甘い物は好きだけど、絶対行きたいわけじゃないから」


「余ってるんだよ。オレはバイトだし、明日は都研だろ。今日空いてるなら椿希と二人で行って来いよ」


「・・・・・・・・・っ!!」


 心なしか硬直して息を呑む椿希。


「たまには腐れ縁二人でっていうのも悪くないんじゃねーか?雲雀さんとは結構二人で行動してるしよ」


 柳太郎が椿希に目線をやって、アイコンタクトした気もするが深くは触れまい。

 しかし、柳太郎からそう言われると、楓人もたまには椿希とイベントに出かけるのも楽しそうな気がしてきた。

 カンナとたまには別行動でもいいだろうし、今日はコミュニティー関係もなし。


ここで彼女と二人でイベントへの参加を断る理由はどこにもなかった。


「俺はいいぞ。椿希は何か予定でもあるのか?」


 店は今日は早めに閉めてもいいと怜司には言ってある。


「別にないわ。それなら・・・・・・一緒に行きましょうか」


 妙にチケットを強く握り締めて、椿希はそう言ってくれた。

 他の人間に対して遠慮していただけでイベント自体には関心があったらしい。



 そして、放課後になると二人は柳太郎の生暖かい笑顔に送られて出かける。



 別に学生の出入りは禁止されていないので、制服のまま電車で二駅のショッピングランドへと向かう。

 ちなみにカンナは久しぶりに友人とカラオケに行くらしい。


 蒼葉ショッピングランドはこの近隣では有名なショッピングモールだ。


 一人暮らしも安心の食料品、洋服、あらゆる種類の物が買える品揃えだ。

 ゲームセンターや隣の水族館にも、空中廊下を通じて繋がっているので娯楽としても十分な場所だ。

 休日を利用して楓人もたまにカンナと出かけたりもするが、椿希とイベントに参加するのは初めてだった。


「最後に来たのいつだっけ?」


「多分、二人で買い物に少し寄ったのは三か月前くらいだったと思うわ」


「そっか、たまに寄ることはあってもすぐ帰ってたしな」


 楓人は椿希とは男女の違いをあまり意識することなく、信頼できる友達として付き合ってきたつもりだった。

 正確には椿希が女子であることはわかっていたが、小学生の延長線上でしか付き合ってこなかったのだ。

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