すたこらさっさと逃げるに限る。

LIC

ふくろうの従者は頭を抱える。

お初にお目にかかります、紳士淑女の皆様。

わたくし、ふくろうでございます。このような木の上からではありますが、ご挨拶させていただきます。

ご主人に名前もいただきまして、現在はマルベールと名乗っております。



外見でございますか?

そうですね、皆様がふくろうと聞いて思い浮かべられる白いふわふわではございませんが、できればわたくしもあの小さい子から老人の方々までもふもふした瞬間に顔面崩壊される様が見られる外見を持っていたら、非常に世渡り上手なふくろうになれていたこと間違いないのですが・・・。


残念なことに灰を被ったような灰色でございます。そしてごわごわとした羽を持っております。闇夜に紛れ込みやすい色なので、気に入ってはおりますよ、わたくしは。


ただやっかいなのが、とある影響で羽の何枚に色がある、所謂「色付き」なのです。

色のでかたはそれぞれなので明確にはお伝えできないのですが、わたくしの場合ですと原色に近い赤とか青とか黄色とか緑とか、そんな色の羽がぽつぽつと灰色の羽の中にあるのです。

一回ご主人が色付き羽の枚数を必死に数えられていましたよ。何枚だったかは忘れましたが。


その間わたくしはずーっと羽を広げさせられてました。

広げていたときから全身が痛かったですよ。ふくろうのわたくしにも筋肉痛ってあるんですかね。



この世界は皆様お察しの通り「ふぁんたじー」な世界でございます。

これは魔女がよく使われていた言葉です。こんな言葉はこの世界にはありませんので。

魔女の知人が住まわれている世界で使われている言葉だそうです。魔女ですからね。秘密の十個や二十個くらいありますよ。本当かは分かりませんが、たぶん事実だと思います。



ちなみに、その魔女はこんなに悪目立ちするわたくしを危険から救ってくださっただけではなく、今のご主人に会わせてくれた方なので、尊敬しておりますよ。魔女もご主人も性格に難有りではありますが。半分お目付け役を押し付けられた気分ですけど。


やはり、わたくしのような色付きは高等魔法の素材になるとか貴重な薬の素材になるとかで危険が多いので、理解のある方に会えるか会えないかというのはとても大事です。

あと、ステータスとして欲しがる方も多いのです。少し忌々しいとも思いますがね。この魅了してしまうわたくし自身が恐ろしいですね。色付きの羽根を取られるのは勘弁ですが。



話がそれました。



そんな流れで魔女に紹介されたご主人ですから、彼女も魔女です。

ちょっとばかり馬鹿でアホでドジでそそっかしいという欠点をお持ちではありますが。


本日もご自分のご利益のため。

誘惑用の香水作りに必要な薬草を取りに、こんな断崖絶壁なところまで来ております。

なんでも意中の方ができたとか。

深い事情はお聞きにならないでくださいね、頭が痛くなります。


ついでに依頼されている他の薬草も取りに来ているのですが、このご主人、やるときはやるのにそのスイッチが入るまでがとても長くてですね。毎度冷や冷やさせられております。これで一人前の魔女と言ってよいのでしょうか・・・。

そして薬草取りという作業は好きらしいので、集めるだけ集めて放置という。救いようがないですね。



「マルベール!お願いだから助けてよー!」



冒頭でもお伝えしましたが、わたくしマルベールでございます。実は名前の由来は「かまんべーる」というチーズからだそうです。ご主人を紹介してくれた魔女が異界から仕入れた「ちーず」の名前だそうです。まんべーる、まんべーる、言いにくいのでマルベール。わたくし気に入っている名前ではありますが、由来を聞いたときの反応には困りましたね。



「マルベールゥゥゥゥゥゥウ」



すみません、先ほどから変な絶叫が聞こえてしまっておりますね。申し訳ないです。

只今ご主人が崖の上で凶暴と恐れられているジャイアントシープと鉢合わせてしまったようです。

助け?そのようなものは不要でございますよ。あまり過保護になってしまうのもご主人のためにはならないので。それにわたくし先ほど見ておりました。薬草取りに夢中になって下を確認せず、ジャイアントシープの頭に大きな石ころを落としてましたからね。本人気づいていませんでしたが。

毎回あれほど注意をしても治らないので、才能だと思って諦めております。



「マルベールゥゥゥゥ…。このちーずふくろう!焼いて煮て食べてやる!!」



ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえてきましたね。

はぁ、ご自分で魔法を使えば良いのに、このご主人、攻撃魔法を使うのが嫌らしんですよね。

あまりにも可哀想になってきたので、今回はここらへんで許してあげましょうか。すぐに忘れてしまうんでしょうけど。


わたくしは木の陰から飛び出し、巨大な羽根を左右に広げてストレッチを始めます。急に動くのは体に負荷がかかりますしね。飛び立つときに不気味な木の枝の音がしたので、折れていないことを願うばかりです。



「マルベール!来てくれてありが・・・キャアアアア」



手を広げて抱きしめ体制だったご主人ですが、貴女、今ジャイアントシープの目の前にいらっしゃるんですよ?


馬鹿な子ほど可愛いというものでしょうか。

そんな安心しきったご主人の胸に飛び込むのではなく、その無防備な両肩をがっつりと掴んで高い崖の上から急降下です。ご主人にとっては背中から谷底に向かって落ちていく感じですね。

ご主人の悲鳴がいつもより大きいですが、不可抗力です。わざとではありませんよ。そういう状況だったので。仕方がなくですよ、えぇ。



「さっさとにげますよ」


「いやぁああああ~~~~~~」



危険な相手と鉢合わせた時はすたこらさっさと逃げるに限ります。

また今日も寝る前にお小言を言わなければなりませんが、貴女の存在以上に大事なものはないので。

ほんとうに、仕方がありませんね。

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