第11話『致命的なミス』

「転生神にもかかわらず事象改変とは、随分と無理をしたものだね」


「貴方の思い通りにさせる訳にはいかない。私には、この世界を守る義務があるのですよ」


「義務、ね。一度は放棄したくせによく言うよ」


「……っ」


 確かに、私たちは手放してしまった。

 でもそれは、彼ら人間は、信じて託すに値すると――


「言い訳だろう、そんなのは。結果が全てだよ。君1人では何も守れなかった。人の力を借りなければね」


 ……そうだ。だけど、それがどうしたというのだ。

 私1人の力ではないけれど、それでも確かに、私は死んだはずの人を救えたのだから。


「……そうだね。それに関しては本当に、本当に――感謝しているんだ」


「……どういう、こと」


「君がもし、彼女を転生させていた場合、もっと面倒なことになったからね。魔法がないあの世界に生き返らせてくれたこと。本当に感謝しているんだよ」


「何を……たとえ彼女が生き返ったとしても、もう彼は、内田創はいません。運命力が働くこの世界では、貴方の能力も十全には使えない筈です」


「その通り。全く面倒なシステムだよ。……けどね、レイン。君は大きなミスをしているよ。致命的なミスをね」


 ミス……? そんな筈はない。

 彼に能力を譲渡するまでリミティブは私に干渉できなかった。

 その後に行った事象改変も不具合など何もなく――


「そこだよ、君のミスは。慣れないことをするからだ」


「彼女はきちんと生き返ったのですよ。それの何がミスだと――」


「そこに至る過程が問題なんだよ。確かに彼女は。でも、訳じゃない」


「え……」


「事故自体は起きたんだよ。彼女が被害者ではなかっただけで。本当に無関係な他人が死ぬ事故が起きたんだ」


 ……そんな、それじゃ……。


「君の行為は、全く無関係な他人を殺して彼女を生かしたに過ぎない。君は、君の事情で、今回の件に無関係な人を殺したんだよ」


 嘘だ、そんな筈は、彼女が助かれば、それで全員、救われて、それで……。


「もし全てを救いたかったのなら、事故そのものを消し去るべきだったね。だから言ったんだ、慣れないことはするもんじゃないと」


 足元が崩れ落ちるような感覚がした。

 私は、私は、折角のチャンスを、生かしきれなかった。


「そう。それがミスだ」


「一つ、目……」


「二つ目のミスは、彼を転生させたことだ」


「――――」


 声が、出なかった。

 そこまで否定されてしまったら、私の行動は何のために、誰のためにあったというのだろう。


「少し考えてみてほしい。内田創は死んだ訳ではないんだよ。死んでもいない人の魂を転生させた場合、未だ地上に残る肉体はどうなるのだろうね」


「は……」


 考えたこともなかった。

 それもその筈。生きた人間は普通。転生するのは決まってだ。

 そして基本的に、死んだ人の肉体は地上には残らない。

 では、生きたまま転生した彼の肉体は……どこに?


「無論、留置場だよ。そして、魂と肉体は表裏一体。運命力は、たとえ魂がなくとも作用する。君は言ったね。もう彼は、内田創はいないのだと。――いるんだよ。まだ肉体は、魂の器は残っている」


 なら……それなら……。


 彼女を殺し得る可能性は、未だ残っている……?


「その通り。だから僕は――君を殺して、もう一度彼女を殺す」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る