第7話『救いは、より相応しい人に』
「――貴方を、救いにきました。内田創さん」
俺の目を真っ直ぐに見つめて、女神はそう言った。
「救うって……どうやって」
「こんなでも、私は一応神様なのですよ。人ひとりぐらいの願いなら……叶えられるのですよ」
その言葉と共に向けられた笑顔は、どこかぎこちなく、無理をしているように見える。
「でもでも、1つの願いを100個にしてくれーっ、とかはやめてほしいのですよ。神様も……そんな万能ではないのです」
美しく可憐な目の前の女神は、何かを堪えるように両手を握りしめながら語りかけてくる。その姿は、迷いを断ち切ろうとしているかのようにも見えた。
……もしかすれば、人の願いを叶えるという行為は、神にとって、難しいことなのかもしれない。大きな代償を伴うとか、現実世界でいう法律のようなもので禁止されているとか。
神様も万能ではないというあの言葉。
きっと、叶えられる願いは、そう多くない。
「貴方が、余計なことを考える必要はないのですよ。ただ……望みを口にしてくれさえすれば、それで、いいのですよ」
「ということは、俺の予想はそこまで的外れでもないってことですよね」
「…………」
やはり、そうか。
神の力は、無限ではない。
なら、そうなのだったら。
きっと、救われるべきは、俺じゃない。
「――だったら、その力は、死んでしまった彼女に使っては貰えませんか。俺が殺してしまった、彼女に」
救いは、全てを奪われた彼女にこそ、相応しい。
「彼女を、生き返らせてください。それが、俺の願いです」
「貴方は……貴方は……この状況でも、他人を思いやれるのですか」
「別に、完全な善意からの行動じゃないですよ。彼女が事故に遭わなければ、俺が捕まることもありませんから」
俺が警察に捕まったのも、全てはあの事故が原因だ。事故が起きなければ、必然的に俺の罪も消える。
だからこれは、俺の願いだ。
「貴方の気持ちは、良く分かりました」
しかし、俺の願いに対する女神の返答は、予想に反したものだった。
「でも……それはできません。彼女を生き返らせることは、できないのですよ」
「……っ、どうして!」
「……彼女は、私の力で別の世界に転生させるのですよ」
「転、生……?」
「実は私、転生を司る神なのですよ」
転生――肉体が滅んでも、魂は別の肉体を得て新たな生活を送るという概念。
神やら救いやら願いやら言われた後だ。今更転生という概念が実在しようと別に驚きはしない。女神が彼女を転生させようとするのも構わない。それでも――
――それと願いを叶えられないことに、一体何の関係があるというのだろう。
「本当に……貴方はどうしてそう、直ぐに気づいてしまうのですか」
「……それじゃあ」
「……彼女を、生き返らせることはできます。でも――」
そこまで口にして、女神は逡巡するような表情を浮かべる。
そして、一度深呼吸をして意を決したのか、口を開いた。
「――貴方が生きている以上、彼女を生き返らせることはできないのですよ」
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