第6話『もう全て、受け入れていたのに』

「神、様……?」


「はい、そうなのですよ」


 神様? この女性が? 本当に?

 確かに人間離れしたこの容姿は女神というイメージに相応しいものではあるが、それにしても、神様とは。

 突拍子もなさすぎて、はいそうですか、と受け入れられない。


「あのあの、もしかして……信じていませんか?」


「まあ……そうですね。基本的に他人は信用しないことにしてるんです。僕の周りには嘘つきが多かったので」


 俺がそう言うと、なぜか自称女神は少し悲しそうな顔をして、「……そうですね」と呟いた。


「……でもでも、この際、信じてもらえなくてもいいのですよ。夢でもなんでも、お話さえできるのなら」


 ――信じてもらえなくてもいい……か。


 でも、その通りだ。

 それぞれがどう捉えようと、本質的な事実は変わらない。

 そして俺にとって、目の前の女性が本当に神様なのか。今見ているこの情景は現実なのか、夢なのか。

 どちらであろうと、問題にはならない。


「――それで、なんでまた神様なんかが俺に構うんですか?」


「……信じて、くれるのですか?」


「信じなくていいと言ったのは貴女じゃないですか」


「そ、そうだったのですよ」


 真っ白のワンピースのような服を取り繕うように両手で直すと、一つ可愛らしい咳払いをしてから口を開いた。


「まず始めに――――本当に、ごめんなさい」


 なぜか、謝られた。


「……どういうことですか?」


「あの、あの事故は……貴方の所為ではないのですよ」



 ◇◇◇◇◇



「事故が……俺の所為じゃない?」


「はい……あの事故は、本来起こる筈がなかったのですよ。貴方を使って、彼女を殺そうと考える人がいなければ」


「何を……」


 何を言っているんだ。

 あの事故は起こる筈がなかった? 俺を使って彼女を殺した?

 なぜ? どうやって? なんの意味があって?


「ごめんなさい。それを今、詳しく説明している時間はないのですよ」


 俺の思考を読み取ったかのように女神が答える。


 事故が俺の所為ではない。

 いきなりそんなことを言われても、俺にはどうしようもない。

 被害者の彼女はもう死んでしまったし、俺の罪状もほとんど確定してきている。

 今更、そんなことを聞かされたところで、全て、手遅れだというのに――


「――そんなことを俺に伝えて、どうするつもりなんですか」


 全部自分の所為だったら、まだ納得もできた。

 俺の不注意が原因だったのだと。俺が殺してしまったのだから、然るべき責任は取らなければならないと。

 それなのに、いきなり「貴方の所為ではない」と言われてしまったら。


「それが全部真実だとしても――俺の罪が消えるわけじゃない……!」


 誰かの所為にしたくなってしまう。


 自分が感じた痛みを、苦しみを、誰かにぶつけたくなってしまう。


「だから、だからこそ、私が来たのですよ」


「え……?」


「――貴方を、救いにきました。内田創さん」

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